呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!

 荷物はこちらで準備するからと言われたので、荷物は小さなカバンにひとつだけ。
 言われた通りに集合場所へと行くと、エスティリオと他何名か、見送りをしに来た人達がいる。

「エル、こっちだよ」
「お待たせいたしました。あの……他の魔道士の方は?」

 エスティリオだけ行くなんてことはないはず。先日の話でも、他の魔道士も転移魔法を使えると言っていたのだし。キョロキョロと辺りを見回すが、一緒についてきそうな人は見当たらない。

「他の人は昨日出発したんだ。ここから皇宮までは遠すぎて一度の転移では無理だから、先に行ってもらっていて、今朝到着したって連絡が来たから、俺達も今から追い掛けるよ」

 魔塔にいる魔道士は、魔道士の中でも優秀な人達であろうに、やはりエスティリオは規格外のようだ。

「それじゃあ後はよろしく頼んだ」
「「「行ってらっしゃいませ」」」

 見送りをしてくれる人の顔には「あの人誰?」と書いてある。転移魔法を使えないような人を連れて行くなんてと、不思議に思うのも無理はない。
 ラシェルの腰にエスティリオの手が添えられた。

「遠いからちょっとキツイかも」

 歪む視界を遮るようにぎゅっと目を瞑ってエスティリオのローブにしがみつくと、腰に回された手に力がこもる。
 この感覚も幾度か体験しているのでもう慣れてきたかと思ったが、キツイと言っていただけあってかなり頭も体もクラクラとした。

「ベクレル様、お待ちしておりました」
「「「お待ちしておりました」」」

 目を開けるなり大勢の声がした。
 先に出発していた魔塔の者達の他にも、皇宮側からの出迎えとで広場には多くの人が集っている。
 自分が魔塔主の隣にいるのはあまりにも場違い過ぎて、思わずサッと後ろに周り、出迎えの群衆に混ざった。

「皇帝陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」

 ドクンっと心臓が跳ね上がる。
 この声は……。
 エスティリオに話しかけている男性を見て間違いないと確信する。ラシェルが皇宮を去る日、父と一緒にいたあの、宮廷魔道士。
 あちらは覚えていなくても、ラシェルははっきりと覚えている。自分に呪いをかけた相手を忘れるはずがない。
 ドキドキとしながら見守っていたが、やはり宮廷魔道士の方はラシェルには気が付いていない。その他大勢には目もくれず、エスティリオを宮の中へと案内している。

「お付きの方達は私の後に付いて来て下さい。ご案内致します」

 エスティリオと離れてしまうことに不安を覚えたが、それもすぐに吹き飛んだ。
 宮へと入っていく間際、ローブの下から覗いているエスティリオの手が、小さく振られたような気がしたから。
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