呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!

「ちょっと待ってて」
 
 パッと体を離してしゃがみ込んだラシェルの横をエスティリオは通り過ぎると、別の部屋へと続く扉から出ていき、いなくなった。と思ったら、すぐに戻ってきた。

「今湯浴み出来るよう、お湯を出してきたから。あんな奴らに触られて、気持ちが悪いでしょ?」
「いえ、そんな。ここは魔塔主様のお部屋ですよね? 宿舎に戻って入りますので」
「だめ。今すぐ洗ってきて。じゃないとここから出さないから」

 置かれている調度品の質とエスティリオの態度からして、ここはエスティリオの私室なのだろうと推測した。
 一使用人のラシェルが、魔塔主の部屋で湯浴みなど出来るはずもないので断ると、間髪入れずに却下された。
 エスティリオなら簡単に、ラシェルを軟禁する事くらいは出来てしまう。扉と窓を開かないようにして、音が外に漏れないようにする魔法くらいは、簡単にかけられるだろう。

「それでは……お言葉に甘えさせて頂きます」
 
 諦めて渋々了承したラシェルに、エスティリオは愛らしい笑みを浮かべて頷き返してきた。

「エルが入浴している間に、後処理諸々を済ませてくる。ゆっくり浸かって休んで。出たら部屋の物も自由に使っていいから!」

 早く用事を済ませたいのか、エスティリオは説明もそこそこに、部屋から出ていってしまった。
 人様の部屋の物を物色するつもりなど毛頭ないが、エスティリオが無防備過ぎて呆れてしまう。

 きっと大切な物もあるでしょうに。不用心過ぎるのではないかしら。

 もしかしたら触れられたくない物、見られたくない物などは予め魔法がかけられていて、魔力無しのラシェルなど警戒する必要すら無いのかもしれない。

 先程エスティリオが入って戻ってきた扉を開けると、浴室があった。
 借りているローブを脱いで畳んだラシェルは、お湯が注がれている湯船へと近付いた。

 すごい。いとも簡単に下から水を汲みあげて、さらにお湯に変えちゃうなんて。

 ライオンのオブジェの口から出ている湯は、1階にある水溜めから魔塔主の部屋がある最上階まで、魔法を使って汲み上げている。しかも水の状態からお湯に変えながらだ。
 ここまでのことを魔力だけで出来る人はそう居ない。湯を沸かす魔道具もあるが、風呂に使うような大量の水を温めるとなると、相当な魔力量が必要で、あまり一般的でない。普通は薪を使って湯を沸かす。

 こんな部屋へ住めるのは、魔塔主になれるくらいでなくては駄目ね。

 恐らくこの部屋にはそこここに、魔法を上手く操れなければ使えない物が、他にも沢山ありそうだ。
 髪の毛と身体を丁寧に洗ってから湯船に浸かると、冷えた体にお湯の温かさがしみ渡る。
< 42 / 133 >

この作品をシェア

pagetop