呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「何だかこのワンちゃん、ここが相当気に入ったみたいだねぇ」

 ラシェルが今日も研究所へ遊びにやって来た犬を撫でていると、ナタリーが昼食を食べに畑から戻ってきた。
 夕立があった日に犬を小屋へ招き入れて以来、ちょくちょくここに来るようになってしまった。吠えたり噛み付いたりはしないので、今のところペットのように可愛がっている。

「しかもエルにだけすっごい懐いてるし」
「そうかしら」
「そうだよ。見ててよぉ」

 ナタリーが犬へと手を伸ばすと、先程まで大人しくラシェルに撫でられていた犬は、すすっと身体を後ろへ引いた。

「ほらね。あたしやアルベラ様が触ろうとすると、すっごい嫌そうにするの」
「でも噛んだり怒ったりしないでしょ?」
「そうだけどさー」

 雨宿りさせてもらったことに、恩でも感じているのかしら?

 理由は分からないが、自分を特別慕ってもらって嫌な気はしない。

「ワンちゃんとか犬って呼ぶのもなんだし、名前付けたら?」
「本当の名前があるかもしれないのに?」

 これだけ人馴れしているし、餌もどこかで食べているのか健康状態も良さそうなところを見ると、やはり飼い犬と考えるのが妥当だろう。
 人様の飼い犬に勝手に名前を付けるのは……と躊躇うラシェルに、ナタリーは「いいじゃん犬って呼ぶよりは」と最もらしいことを言ってきた。

「確かにそうね。『犬』じゃああんまりよね。なら……」

 うーんと考えを巡らせてみる。
 黒いから『クロ』? それとも『ハッピー』とか『ラッキー』みたいな、縁起のいい名前がいいかしら??

 何がいい? と犬を見やると、じっと見つめ返してきた。犬としては珍しい琥珀色の瞳。その瞳の色と毛色とか相まって、ラシェルの頭に良さそうな名前が浮かんできた。
 
「『リオ』って名前にしようかしら」
「リオ? いいねぇ、カッコイイ」
「あなたのこと、今からリオって呼ぶけれど良い?」

 ラシェルが聞くと、リオははち切れんばかりにしっぽを振ってはしゃいでいる。

 ふふっ、喜んでくれたみたいね。

 嬉しそうにラシェルにじゃれてくるリオを見ていると、ますますリオとエスティリオが重なる。
 名前を思案している時、ラシェルの脳裏に浮かんだのはエスティリオ。黒髪に琥珀の瞳がこの犬とそっくりだったから。そして、嬉しそうにしている時の雰囲気も。
 だからエスティリオから、少し名前を拝借させてもらって『リオ』。
 エスティリオは普段、魔塔主様とかベクレル様と呼ばれているので、ナタリーは名前の由来には全く気付いていないようだ。 
 ラシェルからの『エル』といい、我ながら捻りがないと苦笑する。
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