諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 恭平が名前を呼んだことが呼び水になった。同じように咲良も彼の名を呼んだ。
「……恭平さん」
「君に触れたい、もっと……」
 それは存外にキス以上のことを示していることくらい、咲良にだってわかる。咲良自身もそれを求めていた。
 互いの熱をもっと身近に感じたい。離れていて感じることのできなかった互いの生きている証に触れたい。そういう甘い感傷を埋め合って共感し合いたかった。離れていた分、隙間なく一つになってしまいたいのだ。
 そう思ったら、自然と口をついて出ていた。
「私も、あなたに触れてほしい。触れ合いたい」
 素直に想いを伝えることは、時と場合によっては難しいことがある。照れや恥らいがある時だってある。けれど、惜しみなく伝えられるときは伝えたい、と思った。
 咲良の想いが恭平には届いたらしかった。彼は咲良を抱き上げると寝室のベッドへと連れていく。ベビーベッドには恵茉がいて眠っていた。二人の愛し合った証、愛おしい子が側にいる。
 起こしてしまわないようにそっと恭平は咲良の耳の傍で囁く。
「咲良、好きだよ。君のことを……とても愛してる」
 その声に鼓膜が震え、彼を求めているもと深いところ、行く末にはつま先までじんと痺れる心地がした。
 濃密な口づけを交わしながら二人は抱きしめあった。服を脱がせる手がもどかしそうに這いまわり、性急に身体に触れる恭平の熱い掌を感じて、咲良の唇からは声が漏れ、指で愛されるにつれそのたびに跳ねてしまう。恭平から与えられる感覚すべてが懐かしくて恋しかった。
「……恭平さん、好き。私もあなたを、愛してる……」
 互いに一糸まとわぬ姿になってからは無我夢中で何も考えられなくなっていった。声にならない声で、互いの名前を何度も呼び合った。隙間を埋めるように混ざり合い、激しく深く沈んでいく。
 離れている間、伝えられなかった愛の言葉を、何度も伝えあった。それでも足りなくて込み上がってくるものを想いのままに全身で伝え合う。
 キスの雨が降る。熱い体躯に組み敷かれて、久方ぶりに愛する人に激しく求められる夜は、絶え間なく溢れていく感情を揺さぶられ、そして感極まって我を忘れた。
 そうして彼を受け入れて幾度も結び合い、やがて荒々しい波がゆっくりと落ち着いていくと、やっと収束したような安堵感に包まれた。
 それは、恭平も同じだったのかもしれない。
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