諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 これが夢じゃないということを何度も確かめたくなる。それほど幸せを感じていた。
 この幸せをこれからもずっと守っていきたい。その責任が自分にはあるのだ。
 カーテンからこぼれてくる目映い朝の光を感じながら、恭平はよりいっそうつよく胸に刻み込むのだった。


***


 それから二週間後。とうとう和葉と会う約束の日がやってきて、咲良は緊張に身を包んでいた。
 和葉に最後に会った日はもうだいぶ前だが、彼女の鋭い視線とその強硬な姿勢や冷徹な言葉はいつまでも記憶にこびりついている。
 彼女にひとたび睨まれれば、畳みかけるように屈服させられるまで言葉を挟むことが難しいのだということも。
 でも、今日は及び腰になってはいけない。側には恵茉がいる。彼女の笑顔を曇らせないようにしたい。
 咲良は不安をぐっと腹の奥にこらえて気合を入れる。
 今日はひとりじゃない。
「大丈夫だ」
 そう言ってくれる恭平も隣にいるのだから。
 初めて訪れたスペインの街並みを眺める余裕などあるはずもなく、まるで自分の庭みたいに慣れたように歩く恭平に付き従い、和葉がここで過ごしているというヴィラに到着した。
 ヴィラとは、別荘や邸宅、一棟貸しの宿泊施設のことだ。和葉がいるのはバルセロナの中心街のグラシアという北地区にある白い邸宅だった。周りはモダンな建物と旧市街地の雰囲気に溢れてあり、静かなところだった。
 訪ねると、すぐに部屋へと招き入れてくれた。
 アイボリー色の壁の色と黒い調度品が、和葉の着ている青薔薇のようなロイヤルブルー色のスーツをよりいっそう強調させており、彼女はさながら歩く鉄の女のよう。やはり彼女の存在自体が咲良に脅威に感じさせてくる。
 咲良は気持ちで負けないように、しっかりと恵茉の手を握りしめ、恭平に寄り添って和葉の前へと進んだ。
「咲良さん……だったわよね。驚いたわよ。まさかそういうことになっていたなんて。あのあともちゃんと調査をしておけばよかったわ。私にしてはツメが甘かったわね」
「母さん」
 恭平がやんわりと忠告を入れると、和葉は肩を竦めてみせた。
「どうぞ。座って。私だって意地悪だけをしたいわけじゃない。ちゃんと話をしたいからここへ呼んだのよ」
 大きめのソファに恭平と咲良の間に恵茉を座らせ、それから和葉と対峙するような形になった。
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