諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「まずは……そうね。その子の名前はなんていうのかしら」
「恵茉です」
「エマ、いい名ね。どこにいっても呼びやすいもの。通訳をしているあなたのことだから、きっと将来のことを色々考えたのでしょうね」
誉めているようでいて存外に嫌味を言われているようで、咲良は自分の気持ちが折れないように姿勢を正した。
「通訳の仕事は今はしていません。恵茉が身ごもっていると知ったあとに会社を辞めました。その後、旅館で働いている間、観光客のための通訳係として経験を役立ててはいましたが」
「そう」
「それと、恵茉の名前ですが、おっしゃるとおり国際的に通用する名前を意識したことには違いありません。その上で、よい響きや意味を込めました」
「相変らずお堅い人ね」
「それはよく言われます。恭平さんにも度々指摘されますし」
「まあ、それはね。咲良のいい部分でもある」
恭平の穏やかな声に咲良の緊張が少しずつ解れていく。彼は余計な口出しをせずに、まずは咲良と和葉の二人の会話の流れを探っている様子だった。それは咲良にとっても助かった。
「ほん、いーい?」
やや緊張している顔をしていた恵茉が空気を読んだらしく、側にいる咲良ではなく恭平の顔を見上げた。
「ああ、もちろんだ」
恭平に微笑みかけられ、恵茉はほっとしたような顔をする。
和葉はそんな親子の様子を尻目に、咲良の方を冷めた視線で刺した。
「あなた、仕事をあっさりやめて逃げ出したくせに、手を差し伸べられたら簡単に戻ってくるのね」
嘲笑と失望を滲ませた挑発的な物言いは、数年前のあの日と変わらない。そうすれば相手は怖気づくものだと彼女はわかっている。それが彼女のやり口なのだ。
「たしかに逃げ出しました。当時の私はあまりにも無力でしたから」
咲良はその事実を潔く認め、その上で何を言われても揺らがない強い意思を伝えるべく、和葉をまっすぐに見た。
相手が強く出るのならこちらも刺し違える覚悟で挑む。無論、言葉通りに物騒なことをする気はない。そういう意気込みで臨んでいるという意味だ。
咲良の動じない様子が伝わったのか、一瞬だけ和葉が怯んだそのとき、それまで黙っていた恭平が口を開く。
「彼女は大事なものを守るために引いたんだ。それこそが、母さんが彼女に望んだことではありませんでしたか」
「大事なものを守るためですって? あなたはそれを捨てたのでしょう」
「恵茉です」
「エマ、いい名ね。どこにいっても呼びやすいもの。通訳をしているあなたのことだから、きっと将来のことを色々考えたのでしょうね」
誉めているようでいて存外に嫌味を言われているようで、咲良は自分の気持ちが折れないように姿勢を正した。
「通訳の仕事は今はしていません。恵茉が身ごもっていると知ったあとに会社を辞めました。その後、旅館で働いている間、観光客のための通訳係として経験を役立ててはいましたが」
「そう」
「それと、恵茉の名前ですが、おっしゃるとおり国際的に通用する名前を意識したことには違いありません。その上で、よい響きや意味を込めました」
「相変らずお堅い人ね」
「それはよく言われます。恭平さんにも度々指摘されますし」
「まあ、それはね。咲良のいい部分でもある」
恭平の穏やかな声に咲良の緊張が少しずつ解れていく。彼は余計な口出しをせずに、まずは咲良と和葉の二人の会話の流れを探っている様子だった。それは咲良にとっても助かった。
「ほん、いーい?」
やや緊張している顔をしていた恵茉が空気を読んだらしく、側にいる咲良ではなく恭平の顔を見上げた。
「ああ、もちろんだ」
恭平に微笑みかけられ、恵茉はほっとしたような顔をする。
和葉はそんな親子の様子を尻目に、咲良の方を冷めた視線で刺した。
「あなた、仕事をあっさりやめて逃げ出したくせに、手を差し伸べられたら簡単に戻ってくるのね」
嘲笑と失望を滲ませた挑発的な物言いは、数年前のあの日と変わらない。そうすれば相手は怖気づくものだと彼女はわかっている。それが彼女のやり口なのだ。
「たしかに逃げ出しました。当時の私はあまりにも無力でしたから」
咲良はその事実を潔く認め、その上で何を言われても揺らがない強い意思を伝えるべく、和葉をまっすぐに見た。
相手が強く出るのならこちらも刺し違える覚悟で挑む。無論、言葉通りに物騒なことをする気はない。そういう意気込みで臨んでいるという意味だ。
咲良の動じない様子が伝わったのか、一瞬だけ和葉が怯んだそのとき、それまで黙っていた恭平が口を開く。
「彼女は大事なものを守るために引いたんだ。それこそが、母さんが彼女に望んだことではありませんでしたか」
「大事なものを守るためですって? あなたはそれを捨てたのでしょう」