諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「……父さんや母さんにも理解をしてもらいたい。今すぐにじゃなくていい。この先いつか。だが、いくら反対されようと、俺は彼女を離さない。彼女のこともこの子のことも幸せにすると決めたんだ。俺にはその責任がある」
 恭平の説得にようやく和葉に動揺の色が見えはじめる。たじろぐ和葉を前に、咲良も続く。
「お母様、どうかお願いします。恭平さんのお母様にだからこそ、わかってほしいのです」
 あなたにお母様と呼ばれる筋合いはないのだと、突き放された過去を思い浮かべながら、咲良はその上で和葉をそう呼んだ。
「本当に勝手な人たち。もういいわ。好きにしなさい」
 和葉は腕を組んで顔をそむける。
「まるで私が悪役ね。上等だわ。あなたたちが言いたいことはわかったわ。だから、もう出て行ってちょうだい」
「母さん」
「今は無理よ。気分が優れないの。しばらくそっとしておいてくださる?」
 恭平が宥めようと試みるも和葉の強硬な態度は崩せそうになかった。自分がなんとかしなくてはと咲良は腰を浮かせたのだが。
「待ってください。お母様、話を――」
「いい。そのままにしておこう」
 それじゃあ、と恭平が先に立ち上がる。咲良に行こうと声をかけて恵茉の頭をやさしく撫でた。
 心細くなったらしい恵茉が恭平の両手を伸ばす。そんな恵茉に恭平がやさしく微笑んでおいでと抱き上げてくれる。
「母さん、忙しいところ時間を割いてくれたこと感謝する。今日のところはこれで失礼するよ。父さんにもよろしく伝えておいてくれ」
 恭平はそれだけ言い残し、咲良を外へ出るよう促した。咲良も慌てて失礼します、とだけ声をかけて出ていく。邸宅の玄関から振り向くものの和葉が見送るようなこともない。
「よかったんでしょうか……」
 外に出てから灯りがついた和葉の部屋を眺め、咲良は後ろ髪引かれるような気持ちでぽつりと呟く。
 隣で小さなため息が零れてきた。
「母にもプライドがあるんだよ。譲れない考えと許したい感情で揺れている。認められないわけじゃない。君にもそういうところは理解できるんじゃないか?」
 恭平に指摘され、咲良はハッとする。
「……そう、ですね」
 かつて和葉と対峙したとき、恭平に何度も言い寄られたときのことを思い浮かべながら、咲良は自分を納得させた。
「それに、そろそろ恵茉のことも気にかけてやる必要があると思ったんだ」
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