諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「もちろん興味はありますが、この状態でそんな気分になれるでしょうか」
 ……咲良も、恵茉も。
「考えるより動くことの方が大事なこともある」
 ほら、行くぞ……と、恭平が急かす。
 すると、恵茉が顔をあげてきょろきょろする。急に目的の場所へと動きはじめた二人に不思議に思ったのかもしれない。
 ここは恭平に任せてみよう、と咲良はとりあえず彼についていってみることにした。


 小劇場は熱気に包まれていた。
 舞台のステージ上では踊り手の情熱的な赤いドレスが美しく波のように翻る。彼女は大胆な笑顔と真剣な表情をくるくると見せながら観客の目を引くように踊り続ける。
 独特の心躍るリズムと音楽に思わず観客のこちらの身体まで揺れそうになることが何度もあった。
 ふと、咲良が隣を見ると、恭平の膝の上に座っている恵茉が夢中になってステージを見ている。初めての経験に衝撃を受けつつ興味をそそられているようだ。咲良と同じように身体を時々ひょこっと動かしては足をゆらゆらしている。
 咲良はそんな娘の様子に微笑んでから恭平を気にかけた。すぐにも目が合って、彼の得意げな笑顔にちょっと拗ねたような顔で応じ、ひょいっと肩を竦めてみせた。
(恭平さんには敵わないわ……出会った頃からそうだった)
 独りで子育てをしていたとはいえ、祖父母や旅館の従業員たちに見守られ、保育園の先生にも教わることが色々あって助けられていた。でも、やっぱりいつも共にいる相手がいるということはまた別なのだと、咲良は思う。
 咲良だけでは思い至らなかった解決方法を、恭平は見つけてくれる。咲良と恵茉のために動いてくれる。そんな彼に愛おしさを感じてたまらなくなる。彼がいてよかった、と心強さを抱く。
 出会ってからも、付き合っていたときも、彼はそうだった。いつも咲良を包んでいてくれるのだ。
 今も――。
 いうなれば、恭平は咲良にとってずっと変わらない頼もしい【ヒーロー】のような人。
「……恭平さん、提案してくれて、ありがとう」
「ん。それをいうのは俺の方だ。今日はありがとうな」
 暗がりの客席、時々スポットライトが広がっていってはまた赤く染まっていく。
 そんな中、恭平が咲良の手を握ってそっと頬にキスをした。恵茉はステージに夢中で気付いていない。
「……恭平さんっ」
 咲良は驚いて恭平を見た。
< 112 / 126 >

この作品をシェア

pagetop