諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 恭平は動じることなくステージの方へと視線を移す。まわりの客も夫婦あるいは恋人同士で手を繋ぎ合ったりスキンシップをしながら時折手を叩いて掛け声をしている。隙あらば……。
 咲良は雁字搦めになっていた自分にまた気付かされた。
「ママっ」
 恵茉がこちらを向いて手を叩く。
 恭平の膝の上で身体を揺らしていた彼女は、咲良の方へと抱っこをせがみ一緒に手を鳴らしてほしいという。嬉しくなった咲良は恵茉と一緒に掛け声をステージへと送った。
「ole! (オーレイ!)」
 舞台は終演へと向かう。
 小さなお姫様に拍手を……と、進行役が盛り立てる。
 美しいダンサーの弾けんばかりの笑顔に会場はよりいっそう沸き起こっていた。


***


「とっても素敵なステージでしたね」
 約二時間ほどの舞台とトークショーは盛況のうちに終演となった。咲良は恭平と恵茉と一緒に余韻に浸りながら会場を後にする。
「ああ。楽しかったよ。君たちの見事な掛け声にダンサーも嬉しそうだったね」
 二人の間で手を繋がれている恵茉を眺めながら恭平がくすりと笑った。恵茉はすっかりご機嫌だ。
「すっかり魅入られてつられました」
 咲良は先ほどのことを思い出して赤面する。
 ちょっとだけ恥らいが残るのは元々の人種の性と、咲良の個性ゆえ。
 そして改めて思う。色々な国の人がいて異文化の違いはあるものの共有できるもののすばらしさを伝えていきたいと。いつか通訳に復帰することも最初から無理だと考えずにいてもいいだろうか。
 ただ、それでも今はようやく三人になれた親子の時間を大事にしたいと切に願う。受け入れてくれた恭平に心の中でもまた感謝を告げて、愛しい二人の間の子の繋いだ手にぎゅっと力を込めたのだった。
「さて、このあとはどうしようか」
「恵茉がごきげんなうちにご飯を食べたい気がしますね」
 帰りがけにどこか食事に寄るか或いは何か適当にテイクアウトして帰ろうかと二人で相談しているときだった。
 不意に咲良は見覚えのある人物がカフェバーらしき店にいるのを発見する。青薔薇のようなスーツを来た女性。和葉だ。
「恭平さん、あれって……」
 咲良は足を止め、恭平に声をかける。
 恭平もまた気付いたらしかった。
「お母様ですよね?」
「ああ。ひとりかな」
 あのあと和葉も外出していたのだろうか。
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