諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 ふたりは顔を見合わせた。せっかく恵茉が機嫌を直したばかりだ。けれど、通りかかった以上、見て見ぬふりをするのも何か違う気がする。でも、そっとしておくべきだと恭平に言われたことも脳裏をよぎる。
 さて、どうすべきか、と咲良が考えあぐねていると、和葉が係の男性と揉めている様子が見えた。何か困ったことがあったらしい。
「どうしたんでしょうか」
「何か探しているみたいだな」
 とりあえず気にかかったので、側に行ってみることにした。近づくと、係の男性と和葉の話が聞こえてくる。
 側に置いていたショッピングバッグがどこかへいってしまったらしい。取り違えがあったのかスリにでもあったのか。目を離した隙、ほんの僅かな時間だという。係の男性は和葉の事情を聴いていた。
「ええ。貴重品類は平気よ。ただ……買い物したものとストール、それから本が入っていただけ。間違えてもっていたのかしらね。見つからなければ仕方ないわ。まったく。今日は面倒なことばかり起こるわ」
 そんな和葉の声には疲れの色が滲んでいた。仕方ないと言いつつも、それなりに彼女には大事なものだったのではないだろうか。
 咲良は周りを見渡す。そのとき、和葉と同じ紙袋を持った人が店の外に出ていくのが見えた。
「恭平さん、恵茉をお願いします」
「咲良?」
 咲良はそう言い残し、とっさに追いかけた。
「Espere por favor(お願い、待ってください)」
 彼らが立ち止まるのを待って、間違えてもって行っていないかとスペイン語で説明すると、明らかに警戒され、そんなわけがないと主張されてしまう。だいぶお酒が入っているようで真っ赤にした顔がますます上気していた。
「決めつけるなんて失礼じゃない?」
「そうだ。私たちの大事な時間を邪魔しないでくれ」
 たとえ言葉が通じたとしても心を通わせなければ意味がない。このままでは埒が明かないだろう。突破口は何かないかと、咲良はあることを閃いた。
「咲良、彼らは?」
「おそらく、お母様のものと取り違えた相手なのではないかと」
 恵茉を抱いて咲良を追いかけてきた恭平が彼らの前に出るよりも先に、咲良は自分のバッグから一冊の詩集の本を取り出した。
 それは恭平がくれたもので大事にいつも肌身離さず持ち歩いているものだ。
「本が入っているはずです。こういった装丁の……」
 咲良は詩集をずいっと目の前に出した。
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