諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「和葉に緊急だなんだと呼び出され……」
「あなた」
「いや、失礼。相談されてね。別件で出向いていたんだが、こちらに来られそうだったから食事でも……と。なんだ、解決したんじゃないか」
「言いくるめられました」
 和葉はやや不満げにそう言いながらも自分が折れたのを認めることにしたらしい。
 はは、と嗣利は破顔する。
「鉄の女と噂の君でも論破されることがあるんだな」
「誰がそんなことを。私にだって人の心はありますよ」
 嗣利と和葉が言い合っていると、恵茉が難しい顔をしはじめた。新たな登場人物について不思議に思ったらしく首をひねっている。
 初対面で攻撃的だった和葉は例外として、幼い頃から人の往来が多い旅館で育ってきた恵茉は人見知りはあまりしないタイプだ。急に現れた温厚そうな壮年の男性は一体誰なのかと子どもながらに混乱しているらしい。
 咲良は恭平と共にとりあえず見守ることに徹した。
「ばあば、じいじ……んーと、んん」
 実家の咲良の祖父母を思い浮かべているのかもしれない。祖父母ほど年老いていないから何か考えているのだろうか。
「ばば、ばちゃま……」
 さっき和葉に言われたことを口ずさむように言いながら身体を動かして、それから閃いたように恵茉はパッと顔を明るくした。
「じじ、じちゃま!」
「私をおじいちゃんだと思ってくれるのか。賢い子だね」
 嗣利の表情に皺が寄る。エリート外交官としての顔ではない、壮年の男性……否、まさしく祖父だった。
 幼い恵茉の存在感は無敵だ。おかげで、大人四人と子ども一人の間に和やかな空気が漂っていた。
「さて。皆で食事をしないか。せっかく集まったのだから」
 嗣利が提案すると、和葉も乗り気になった。
「そうね。今度こそ、結婚式の話でもしましょうか」
「母さん」
 懲りない人だ、と恭平がたしなめるようにいう。
「あら。構わないじゃない。あなたはそのつもりで咲良さんと恵茉を強引に日本から連れてきたんでしょうから」
「強引にとは聞き捨てならないな」
 恭平が即座に反発をすると、嗣利が呆れたように言った。
「おまえたち、親子喧嘩はあとにしなさい。咲良さんと恵茉が困るだろう」
「喧嘩はしていないさ。いつものことだよ」
「ええ。いつものことです」
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