諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
恋を知らない。恋を知ろうとする時間がなかったといえばそうかもしれない。
誰かを好きになろうと動くことも、誰かが気になっていつの間にか目で追うようなことも今までなかった。咲良の好奇心は常に勉学の方にあったからだ。
でも、恋人同士の仲睦まじい雰囲気を目にすれば、それはよいものだな、と感じるところはある。
恋愛に対して控えめな考えを持っているのは、母が愛する人と添い遂げられなかった人生を歩んでそして寂しいまま亡くなったことを知っているからだろうか。
そんなふうに咲良は自己分析をした。その上で、母の事は尊敬しているけれど、母のような人生は送りたいと思えなかった。
それとも、ちゃんと恋を知れば、そんなふうに感じることもあるのだろうか。祖父母のように時々喧嘩しながらもお互いを支え合う二人になれる日はくるだろうか。
(いけない。また考え事をしてしまっていたわ)
腕時計で時間を確認する。
今から待ち合わせの場所に行けば、約束の時間の三十分前にはついてしまいそうだ。付近のカフェに入ろうか、などと思いながら方向を変えようとすると誰かの胸元にぶつかってしまった。
「失礼」
男性の声につられて咲良もごめんなさいとすぐに謝罪する。よく見ると、彼のスーツがうっすらと白くなってしまっていた。
「こちらこそ申し訳ありません。お召し物にファンデーションがついてしまったのではないですか」
急いでバッグの中からハンカチを取り出そうとしたところ、彼が動きを止めた。
「あれ、君」
「え?」
彼の声にようやく顔をあげる。ややあって咲良は彼の顔を確かめてから目を丸くした。
「君だったか」
やあ、と彼は品の良い笑顔を向けてきた。
高宮恭平、今から会う約束をしているその人だったからだ。
一瞬、彼の端整な顔立ちに引き込まれるように見惚れてしまってから、咲良は我に返った。これじゃあ先輩たちのことをとやかく言えたものではない。
「た、高宮さんだったのですね。ごめんなさい。私、考え事をしてしまいまして、しっかりと前を見ていませんでした。スーツよごしてしまったのでは……」
彼の前では謝ってばかりだ。失態ばかりを見せているのが恥ずかしい。頬のあたりがじんわりと熱く、耳のあたりまでその熱が伝播して広がっていくのを感じる。
「いや。気にしないでくれ。ほら、目立たないから大丈夫だよ」
誰かを好きになろうと動くことも、誰かが気になっていつの間にか目で追うようなことも今までなかった。咲良の好奇心は常に勉学の方にあったからだ。
でも、恋人同士の仲睦まじい雰囲気を目にすれば、それはよいものだな、と感じるところはある。
恋愛に対して控えめな考えを持っているのは、母が愛する人と添い遂げられなかった人生を歩んでそして寂しいまま亡くなったことを知っているからだろうか。
そんなふうに咲良は自己分析をした。その上で、母の事は尊敬しているけれど、母のような人生は送りたいと思えなかった。
それとも、ちゃんと恋を知れば、そんなふうに感じることもあるのだろうか。祖父母のように時々喧嘩しながらもお互いを支え合う二人になれる日はくるだろうか。
(いけない。また考え事をしてしまっていたわ)
腕時計で時間を確認する。
今から待ち合わせの場所に行けば、約束の時間の三十分前にはついてしまいそうだ。付近のカフェに入ろうか、などと思いながら方向を変えようとすると誰かの胸元にぶつかってしまった。
「失礼」
男性の声につられて咲良もごめんなさいとすぐに謝罪する。よく見ると、彼のスーツがうっすらと白くなってしまっていた。
「こちらこそ申し訳ありません。お召し物にファンデーションがついてしまったのではないですか」
急いでバッグの中からハンカチを取り出そうとしたところ、彼が動きを止めた。
「あれ、君」
「え?」
彼の声にようやく顔をあげる。ややあって咲良は彼の顔を確かめてから目を丸くした。
「君だったか」
やあ、と彼は品の良い笑顔を向けてきた。
高宮恭平、今から会う約束をしているその人だったからだ。
一瞬、彼の端整な顔立ちに引き込まれるように見惚れてしまってから、咲良は我に返った。これじゃあ先輩たちのことをとやかく言えたものではない。
「た、高宮さんだったのですね。ごめんなさい。私、考え事をしてしまいまして、しっかりと前を見ていませんでした。スーツよごしてしまったのでは……」
彼の前では謝ってばかりだ。失態ばかりを見せているのが恥ずかしい。頬のあたりがじんわりと熱く、耳のあたりまでその熱が伝播して広がっていくのを感じる。
「いや。気にしないでくれ。ほら、目立たないから大丈夫だよ」