諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 思わずムンと胸を張り、表情に気合を入れる咲良を前にし、恭平がくすりと笑う。
「今、何かおかしなところがありましたか」
「いや。君の好ましいところをもうひとつ見つけたのが嬉しかっただけだよ」
 屈託のない恭平の表情は飾らない彼の素を垣間見えたみたいで胸のあたりが狭く絞られるような感覚がした。
 この感覚はなんて説明したらいいのだろう。くすぐったいような苦しいような……まだまだ語彙力が足りない自分がはがゆくてもどかしい。
 身悶えているうちに視線が絡んで、そこから目が離せなくなってしまう。本当にこんな説明のつかない感情は初めてだった。
「ええと」
 適切な言葉を探しているうちに、恭平と目が合って、ぽっと頬に小さな火花が散った気がした。
「通訳をしているときの声もいいが、普段の声もすてきだな、と。さっき古書店でも言ったように、君の表現の仕方も好きだ」
 面と向かって褒めてくれる人は仕事場でよく会う。社交の場や国柄というのもある。彼のそれはでも仕事のものとは違う気がする。
「私は、高宮さんの人を居心地よい雰囲気にさせてくれる天才だと思いました」
 そう。これだけは言える。この間のこと、今日のことも。あれからずっと温めていた想いを咲良は素直に伝えた。
「ありがとう?」
「あ、私もビジネス的に何か誉めなくてはいけないと思ったからというわけではなくて、これは本心なのです。先日は本当にありがとうございました。見習うべきポイントが幾つもありました」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。じゃあ、君のその好意に付け込むことを赦してもらえるのなら、また僕を知る機会をもうけてほしい」
「はい」
「即答だな。ますます嬉しいよ」
「あっ」
 咲良はとっさに手を口元にもっていきそうになった。交渉事が巧みなのも彼の職業柄か或いは彼の性質か。
 二人に共通するものがあるのだとしたら、好奇心や探求心……といえるのかもしれない。彼の傍にいたら見えなかったものが見えるような気がする。
 それはつまり――彼が咲良に見出してくれた知識欲に似たものかもしれない。
 もっと彼のことが知りたい。その機会があったら嬉しい。
「私も、もっと高宮さんのことを知りたいと思っています」
「そう。光栄だな」
「はい。ぜひとも色々勉強させていただきたいです」
「……色々ね。これからが楽しみだな」
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