諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 すぐに返事は求めていない、ということだろうか。そうまでして待っていてくれるということは。
「高宮さんは、私のことが好きですか?」
 咲良は恭平にまっすぐ問いかけた。
 すると彼は意表を突かれたような顔をしたあと、少し戸惑ったような表情を浮かべた。ほんのり頬が染まっているように見えるのはお酒のせいか否か。
「……っ参ったな」
「え?」
「いや。そういう不意打ちはけっこう効くもんだなって。そうだった。大事なことを俺は伝えなくちゃいけなかったんだ。君にあれこれ偉そうに言ってたくせにね。外交官としても人としても足りてなかった。ごめん」
 恭平は前置きしたあとで、咲良の前に回り込んだ。
「百川咲良さん」
 急にかしこまった彼にドキリとした。
 咲良もまた姿勢を正して彼をまっすぐに見る。
「はい」
「俺は君のことが好きだ。よかったら俺と付き合ってほしい。君は? 俺のことが好き?」
 恭平の問いに咲良は自分の中に芽生えた恋を向き合いながら彼を見つめた。
「……高宮恭平さん」
「はい」
「私はあなたのことが好き……です。ぜひとも御赦しいただけるのなら、あなたとお付き合いをさせていただきたいです」
 こんなに呼吸がしにくいと思う発声の仕方をしたのは初めてだったかもしれない。
 言葉を扱う仕事をしているのにうまく言えたかも自信がない。ただ、こみ上げてくる想いを彼に伝えたいという一心だけが咲良を動かしていた。
 恭平は微笑んで手を差し出してきた。
「うん。ぜひ、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
 咲良は恭平の大きな手をじっと見てそれから握手に応じた。
 さっきも感じた大きくてしっかりとした骨張った感覚。少しだけひんやりとした、でも中心があたたかい手。彼そのものを表しているような気がして、胸の内側がきゅっと狭くなる。
 これを人はときめきと呼んでいるらしい。それを自分がこの年になって生まれて初めて経験することになるとは考えてもみなかった。
(高宮恭平さん……のことが、好き……)
 胸の中で温めた言葉はよりいっそう咲良に意識を強めていく。
「そういう顔を見せてもらえると、帰したくなくなるな」
「え」
「今夜のところは君の信用を先に勝ち取りたいし、送り狼にならないでおくけどね」
「?」
「いいよ。ゆっくり付き合って行こう」
「は、はい」
< 31 / 126 >

この作品をシェア

pagetop