諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
鼓動が耳のあたりまでせり上がってきて、目も頬のあたりもじんじん痛い気がする。一体自分はどんな顔をして彼を見ているのだろう。
胸の奥が苦しいようなくすぐったいような、それでいて泣き出したいくらい嬉しいような、初めて経験する矛盾した感情の揺らぎに、咲良は陶然としながら彼の名前を刻み込む。
高宮恭平さん。
私が初めて恋をした、好きな人――。
三月、四月、五月、六月……。
出会った春からまもなく三ヶ月が経過しようとしていた。二人の交際は順調、といっていいだろうか。咲良にはまだ自信がないけれど。
恭平とはあれから仕事以外でも口実を使わなくても連絡を取り合うようになったし、多忙の合間を縫ってデートなる逢瀬を何度か交わした。つまり恋人同士の関係というものを咲良は理解しつつある。
恭平は仕事だけじゃなくプライベートにおいても距離の取り方や詰め方が巧みだ。けれど、フットワークが軽いからといって相手の心の扉をいきなり開けようとはしない。エスコート上手の紳士というだけではなく意外に慎重派なのだ。
(手を繋いでデートをしてキスも何回かしたけれど……された、というのかしら。動物を可愛がるような感じというか、ちょっとした……むむ)
自称生き字引の堅物な咲良は、交際についても検索したし、お昼休憩のときに先輩たちの経験談を思わずインタビューした。
「あなたって本当に面白い人よね」
先輩のひとりが面食らった顔をしては笑い出す。もう一人の先輩は「からかったら悪いわよ」と宥めつつも咲良をまるで珍獣を見るかのような目を向けてきた。
「あれだけ素敵な人とお付き合いしたら悩むのは当然よ。それにしても、すぐに手を出さないなんてプライベートでも彼は紳士なのね」
羊の皮を被った狼じゃなくてよかったわね、と先輩はからかう。咲良はうっかりそれをメモしそうになった。
「まぁいいじゃないの。大人がピュアなお付き合いをしていたって。どんな偉人でも歴史は人それぞれよ」
「偉人の歴史……それはそうですが」
先輩たちふたり揃ってくすくすと笑い合う。すっかり彼女たちの玩具にされてしまっているようだ。
参考になる回答を得られなかった咲良はやや不満だったが、そもそもこの手の話題は人に聞くものではなかったのかもしれない。
「けど、現実の問題もあるわよね。案外のんびりもしていられないんじゃない?」
胸の奥が苦しいようなくすぐったいような、それでいて泣き出したいくらい嬉しいような、初めて経験する矛盾した感情の揺らぎに、咲良は陶然としながら彼の名前を刻み込む。
高宮恭平さん。
私が初めて恋をした、好きな人――。
三月、四月、五月、六月……。
出会った春からまもなく三ヶ月が経過しようとしていた。二人の交際は順調、といっていいだろうか。咲良にはまだ自信がないけれど。
恭平とはあれから仕事以外でも口実を使わなくても連絡を取り合うようになったし、多忙の合間を縫ってデートなる逢瀬を何度か交わした。つまり恋人同士の関係というものを咲良は理解しつつある。
恭平は仕事だけじゃなくプライベートにおいても距離の取り方や詰め方が巧みだ。けれど、フットワークが軽いからといって相手の心の扉をいきなり開けようとはしない。エスコート上手の紳士というだけではなく意外に慎重派なのだ。
(手を繋いでデートをしてキスも何回かしたけれど……された、というのかしら。動物を可愛がるような感じというか、ちょっとした……むむ)
自称生き字引の堅物な咲良は、交際についても検索したし、お昼休憩のときに先輩たちの経験談を思わずインタビューした。
「あなたって本当に面白い人よね」
先輩のひとりが面食らった顔をしては笑い出す。もう一人の先輩は「からかったら悪いわよ」と宥めつつも咲良をまるで珍獣を見るかのような目を向けてきた。
「あれだけ素敵な人とお付き合いしたら悩むのは当然よ。それにしても、すぐに手を出さないなんてプライベートでも彼は紳士なのね」
羊の皮を被った狼じゃなくてよかったわね、と先輩はからかう。咲良はうっかりそれをメモしそうになった。
「まぁいいじゃないの。大人がピュアなお付き合いをしていたって。どんな偉人でも歴史は人それぞれよ」
「偉人の歴史……それはそうですが」
先輩たちふたり揃ってくすくすと笑い合う。すっかり彼女たちの玩具にされてしまっているようだ。
参考になる回答を得られなかった咲良はやや不満だったが、そもそもこの手の話題は人に聞くものではなかったのかもしれない。
「けど、現実の問題もあるわよね。案外のんびりもしていられないんじゃない?」