諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「……と言いますと?」
 今度こそメモすべき案件かと前のめりになる咲良に、先輩たちは顔を見合わせた。少し困ったように眉尻を下げている。さっきのからかいモードとは違う様子だ。咲良の胸の中に不穏なざわつきが広がっていく。
「ちらっと小耳にした話だけれど、彼、そろそろ在外公務に入るんじゃないかしら」
「在外公務……」
「彼みたいに若くて見目麗しい殿方、いくらエリートって言ってもなかなかいないもの。彼は広報や交渉の腕もいい。外務省でも寂しがられてるみたいね」
 つまりこれから彼は海外の大使館や領事館などの在外公館に勤務する可能性が高いということ。そうなれば、一年や二年ちょっとでは戻ってこられないだろう。
 咲良は先ほど悶々としていた思考に一旦ピリオドを打つことにした。浮かれている場合ではなかったかもしれない。
「それで、ついてきてって言われたらどうするの?」
「まさか」
「え、そういうこと考えなかったわけ?」
「まだ彼とお付き合いをしてからそんなに経過していませんし……」
「学生のお付き合いじゃないんだもの。ええと、あなたは二十六よね。彼はたしか三十三くらいって聞いたわ。最初から将来のことを含めて結婚前提の付き合いがはじまっていてもおかしくないと思うけれど」
「そういうものなのでしょうか。彼には何も言われていないのですが……」
 咲良の質問に先輩は断言はしなかった。
「それは……存外に言葉にしない人もいるし、する人もいるし、人それぞれよ。彼がどう考えているかわからないから、余計なことは言わないでおくわね」
「困らせてしまってすみません」
「いえ、いいのよ。でも、お付き合いのことは二人の問題だから、一度、この先のことを考えてじっくり向き合ってみるべきだと思うわ」
「まずは仕事のことから触れたらどうかしら? 彼の子恩後の海外勤務のタイミングについてなら聞き出しやすいんじゃない? そしたら彼の方から何かアクションがあるかもしれないし」
 咲良は先輩たちの助言に素直に頷いた。
 だいたい五、六年ごとに在外公務と外務省本庁勤務を繰り返し、生涯の半分は海外という生活がベースの外交官。彼の年齢と経歴からするとまもなく渡航する可能性があってもおかしくはない。
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