諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
もし長きにわたり向こうへ行って戻ってくる頃には四十手前くらいになっている。彼はきっとキャリア組として再び外務省の霞が関に勤務し、今以上に地位の高い幹部に名を連ねることになるのだろう。その頃には咲良は三十をとっくに過ぎていることになる。
けれど、まだ付き合い立て三ヶ月くらいで一年ならまだしも五年という歳月の先のことなど想像もつかない。
咲良は自分の通訳の仕事を考えるあまりに、彼についていくという考えはなかった。そうでなくても二人の交際に影響があるとまでは思い至らなかった。
恭平が簡単には手を出してこなかった理由。それは、咲良のペースに合わせてくれている慎重派だからと決めつけていた。
(つまり――ええと、どういうことなのだろう)
経験値不足の咲良は混乱を極めた末に、一つの解にたどり着く。
(最初からサヨナラが想定された期間限定のお付き合いだったということでは?)
すとんと腑に落ちたはずなのに、喉のあたりにしこりが残っている感覚がした。
(交際は永遠ではない。ある日突然別れがやってくる。特別な約束をしていない限り、永遠にあるものと決めつけてはいけない)
恭平は咲良のモノではないし、咲良は恭平のものでもない。互いに互いの所有物ではない。別々の人間としてそれぞれ生きる道がある。恋人同士になったとはいえ、個々の人生があるのだ。
「……苦い、苦しい……痛い」
その言葉を日本語ではない言語に変えた。そうして誤魔化したとしても拭えない感傷がそこには在った。
外交官としての恭平が好きだ。仕事をしている時の彼の生き方が素敵だ。彼の活躍を心から願っている。だから、彼が選ぶ未来は祝福したい。
でも、同じだけ離れがたい。前よりもずっと彼のことが好きになってしまったからだ。
悶々と考えていた交際の目安。
どうして気になっていたのかが咲良は自分で理解した。恭平に触れてほしかった。彼に求めてほしかったのだ。彼が求めないことに寂しさを感じてしまっていた。物足りなさを抱くほどに恋しく思っていたのだと気付かされた。
まもなく仕事に戻るというときにスマホを見ると、一通のメッセージが入っていた。
恭平からだった。
はっと息を呑む。鼓動がこめかみにまで脈を打つくらい強く響いていた。不安や焦りのような感情がじわじわと下肢から這い上がってくる。こんな得体の知れない感情は初めて知った。
けれど、まだ付き合い立て三ヶ月くらいで一年ならまだしも五年という歳月の先のことなど想像もつかない。
咲良は自分の通訳の仕事を考えるあまりに、彼についていくという考えはなかった。そうでなくても二人の交際に影響があるとまでは思い至らなかった。
恭平が簡単には手を出してこなかった理由。それは、咲良のペースに合わせてくれている慎重派だからと決めつけていた。
(つまり――ええと、どういうことなのだろう)
経験値不足の咲良は混乱を極めた末に、一つの解にたどり着く。
(最初からサヨナラが想定された期間限定のお付き合いだったということでは?)
すとんと腑に落ちたはずなのに、喉のあたりにしこりが残っている感覚がした。
(交際は永遠ではない。ある日突然別れがやってくる。特別な約束をしていない限り、永遠にあるものと決めつけてはいけない)
恭平は咲良のモノではないし、咲良は恭平のものでもない。互いに互いの所有物ではない。別々の人間としてそれぞれ生きる道がある。恋人同士になったとはいえ、個々の人生があるのだ。
「……苦い、苦しい……痛い」
その言葉を日本語ではない言語に変えた。そうして誤魔化したとしても拭えない感傷がそこには在った。
外交官としての恭平が好きだ。仕事をしている時の彼の生き方が素敵だ。彼の活躍を心から願っている。だから、彼が選ぶ未来は祝福したい。
でも、同じだけ離れがたい。前よりもずっと彼のことが好きになってしまったからだ。
悶々と考えていた交際の目安。
どうして気になっていたのかが咲良は自分で理解した。恭平に触れてほしかった。彼に求めてほしかったのだ。彼が求めないことに寂しさを感じてしまっていた。物足りなさを抱くほどに恋しく思っていたのだと気付かされた。
まもなく仕事に戻るというときにスマホを見ると、一通のメッセージが入っていた。
恭平からだった。
はっと息を呑む。鼓動がこめかみにまで脈を打つくらい強く響いていた。不安や焦りのような感情がじわじわと下肢から這い上がってくる。こんな得体の知れない感情は初めて知った。