諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
『今夜、会えないか。仕事が終わったら一度連絡する』
 交際は対等であるべきではなかったのか。対等じゃなくなったらそれは依存ではないのか。彼を縛り付ける存在になったらいけない。
『はい。退勤後、こちらからも連絡をいたします』
 動揺しないように事務的に返信をした。
 それからは極力考えないようにして咲良はいつも以上に仕事に没頭した。


 仕事が終わったあと、咲良は待ち合わせ場所に向かった。初めて彼と行った古書店の前だ。
 あれ以来、そこが二人のデートの待ち合わせ場所の定番だった。花の香りがふんわりと漂う日も、初夏の新緑のまぶしさを感じる日も、雨がしとしとと降る肌寒い日も――。
 そして今日はというと、にわか雨がやがて本格的に降り出しそうになったので、雨宿りついでに近くの喫茶店に入ることにした。
 二人は窓際のテーブル席に向かい合って座った。
 先ほどよりも曇天が広がり、激しく雨が降りはじめた。ものの数分で、あっという間に土砂降りになってしまった。しばらくここから離れなさそうだ。
 適当にコーヒーとスイーツのセットを頼んで、近況を話した。
「いよいよ梅雨の時期か。それが過ぎたらまた暑い夏がくるな」
 恭平は窓を激しく叩く雨粒を眺めながら言った。
 その間にも、目の前にフリルのついた白皿に載せられた可愛い苺と抹茶のロールケーキ、それからアイスコーヒーが運ばれてきた。
 喉が乾いていたのか、恭平のアイスコーヒーのグラスは半分より下に減っていた。お代わりが必要になるかもしれない。
 そういえば彼とは色々な話をしたけど、具体的に好きな季節を聞くのを忘れていた。
「夏はお嫌いですか?」
 咲良はグラスを眺めつつ恭平に尋ねた。彼はとうとうスイーツよりも先にコーヒーを先に飲み干してしまった。
「四季のある日本には誇りを持っているけれど、年々二極化してるように感じているよ。俺はその希少な春や初夏、秋が好きかな。そのうちなくなるのかもしれないと思うと愛おしく感じないか?」
「それはわかるかもしれません」
 たとえば満開だった桜が風や雨に散って、葉桜へと変わっていくとき。黄金色の銀杏から葉が落ちて、地面が絨毯のように色づいていたとき。季節の変わり目に寂しさを感じるような情緒が好きだ。愛おしいという恭平の表現の仕方も好きだ。彼が好きだ、とかみしめてから咲良は目の前の彼をそっと見た。
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