諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「君は?」
「私はどの季節も風流を感じられるので甲乙つけがたいです。でも、春が一番……やっぱり好きです」
あなたが私を見つけてくれた春の日が、好きなのだと心の中で温めていると、恭平がふんわりと微笑を浮かべた。
「君の名前も春にちなんでいることだしな」
「はい」
恭平はいつも咲良の想いを汲み取ってくれる。彼の気持ちが嬉しくて、咲良はそわそわ落ち着かない気持ちになってしまう。
恭平に『咲良』と呼ばれるその声音や響きのおかげでもっと自分の名前が好きになったのだと、勢い余って言いたくなったけれど、静かなカフェの中を見渡してぐっと抑えた。
そして咲良はある現実と向き合っていた。
そうだった。今日は普通のデートではないかもしれないのだ。ずっとそんな予感がしていた。浮かれるのは程々にした方がいい。
「春、といえば……」
恭平の声が少しかしこまったように硬くなった。
グラスの氷が崩れてカランと無機質な音を立てる。
さっきとは一変して胸の内側が冷えていく気がした。
「海外赴任が決まったよ。来年の春、フランスの日本国大使館の公使に着任することになったんだ。その準備期間として、一足先に秋口に向こうに発つことになりそうだ」
咲良はいったんフォークとナイフを置いた。舌に残っていたはずの甘い味はあっという間に何もわからなくなってしまった。
やっぱり。予感は的中した。
自分から尋ねるまでもなく、彼から切り出される気がしていた。
声が震えないように、顔が強張ってしまわないように。自分が喜んであげなくてはどうするのか。
咲良はじくじくと喉のあたりに張り付く不快な感触を払うように、微笑みを向ける。
「そうですか。公使……大きなお役目ですね。昇進おめでとうございます」
「まあ、定期的な海外行きはよくあることだから。戻ってから昇進といえるかどうかは自分の手腕次第だ。こっちでは大使のサポート役という点ではいい勉強をさせてもらったよ。君にも出会えた」
恭平がやさしくそう言うので、咲良は息が止まりそうになってしまった。
「そんな恐れ多いお言葉……光栄です」
嬉しいけれど、そんな別れの準備みたいな言葉をかけないでほしかった。嬉しいと思った途端にすぐ悲しくなってきてしまう。
「わかりました。続きをどうぞ。思い切って一思いに。構いません」
「私はどの季節も風流を感じられるので甲乙つけがたいです。でも、春が一番……やっぱり好きです」
あなたが私を見つけてくれた春の日が、好きなのだと心の中で温めていると、恭平がふんわりと微笑を浮かべた。
「君の名前も春にちなんでいることだしな」
「はい」
恭平はいつも咲良の想いを汲み取ってくれる。彼の気持ちが嬉しくて、咲良はそわそわ落ち着かない気持ちになってしまう。
恭平に『咲良』と呼ばれるその声音や響きのおかげでもっと自分の名前が好きになったのだと、勢い余って言いたくなったけれど、静かなカフェの中を見渡してぐっと抑えた。
そして咲良はある現実と向き合っていた。
そうだった。今日は普通のデートではないかもしれないのだ。ずっとそんな予感がしていた。浮かれるのは程々にした方がいい。
「春、といえば……」
恭平の声が少しかしこまったように硬くなった。
グラスの氷が崩れてカランと無機質な音を立てる。
さっきとは一変して胸の内側が冷えていく気がした。
「海外赴任が決まったよ。来年の春、フランスの日本国大使館の公使に着任することになったんだ。その準備期間として、一足先に秋口に向こうに発つことになりそうだ」
咲良はいったんフォークとナイフを置いた。舌に残っていたはずの甘い味はあっという間に何もわからなくなってしまった。
やっぱり。予感は的中した。
自分から尋ねるまでもなく、彼から切り出される気がしていた。
声が震えないように、顔が強張ってしまわないように。自分が喜んであげなくてはどうするのか。
咲良はじくじくと喉のあたりに張り付く不快な感触を払うように、微笑みを向ける。
「そうですか。公使……大きなお役目ですね。昇進おめでとうございます」
「まあ、定期的な海外行きはよくあることだから。戻ってから昇進といえるかどうかは自分の手腕次第だ。こっちでは大使のサポート役という点ではいい勉強をさせてもらったよ。君にも出会えた」
恭平がやさしくそう言うので、咲良は息が止まりそうになってしまった。
「そんな恐れ多いお言葉……光栄です」
嬉しいけれど、そんな別れの準備みたいな言葉をかけないでほしかった。嬉しいと思った途端にすぐ悲しくなってきてしまう。
「わかりました。続きをどうぞ。思い切って一思いに。構いません」