諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 身を正して背筋を伸ばし、両手をぐっと膝の上で握りしめ、来たる結論を受け入れる覚悟をしていたところ、彼はいったん言葉を紡ぐのをやめて整った眉を少し下げ、困惑した表情を浮かべた。
「ちょっと待って。何を言われると思ってた? さては、俺の予想だと……君はきっと誤解をしている方かな」
 やれやれ、と恭平は小さくため息をつく。
 それから、大事なものを見てほしい、と彼は言った。
「君にはこれを……」
「え」
 目の前に差し出されたのは指輪だった。証明の下で台座の中に目映い光を放っている純白の花のようなそれは紛れもなく――。
「俺と、結婚してくれないか」
 頭が真っ白になってしまった。
 咲良はただ恭平の顔を見つめるばかりで言葉にならない。
 珍しく恭平の頬から耳にかけてうっすらと赤みがさしている。そんな彼の見たことのない表情にも驚きを隠せない。
「もちろん、俺の都合に合わせてすぐに一緒に来てくれとか無理強いをするつもりも、すぐに返事を急かすつもりもない。君にも大事な仕事があるだろう。理解しているよ。ただ、君とこの先も一緒にいたい気持ちだけは譲れないんだ。だから、せめて約束をしてから渡航したい。それこそ、俺のわがままな願いかもしれないが……」
 恭平が咲良との将来を考えていてくれたなんて信じがたい。二人の交際期間はそんなに長くはないのに。でもこれだけはわかる。彼は本気で伝えてくれているのだと。
 切々と綴られる彼の本心に、咲良は胸を打たれていた。相手を想いながらそれでも伝えたい気持ちを訴える。彼らしさに胸がぐっと詰まってしまう。
「……高宮さん」
 なんて伝えたら最適解に至るだろう。恭平の想いに応えるだけの適切な言葉が見つからない。
 通訳の仕事をはじめてから、両者の意思疎通をスムーズに進めるための仲介役として、気の利いた言葉を扱えるようになったつもりでいた。そのはずなのに。これも恋愛分野に疎いせいなのか。少しも役立たせることができない。
「咲良……」
「は、はい」
「俺のわがままを聞いてくれるなら、言葉にならなくても頷いて。それだけでいい。ちゃんと伝わるから」
「……っ!」
 咲良の様子を察したのだろう。彼はそう言った。
 相手を想いながら、でも引かない彼の姿勢、その強い想いを見せる彼にドキドキしてしまう。全身にまで火花が散ったみたいに、指先まで脈を感じるほどに。
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