諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 咲良は彼から与えられる初めての痛みに驚いて苦しんだ。でも、その痛みはいつか消えゆくものだと思えばこそ愛おしくて。
 無論、恭平はずっと優しくしてくれて、大切にしてくれて。結ばれた瞬間に、咲良はまた泣いてしまった。
「私は、高宮さんと出会ってから、本の虫ではなく、泣き虫になった気がします」
「面白いことを言うね」と恭平は小さく笑ってから咲良の涙を指で拭ってくれた。
「そういうところも可愛いと思うんだよな。参るよ」
 そう言って恭平が咲良の瞼にキスを落とす。
 どこまでも広い草原のような、どれだけ踏みしめてもいいと許される大地のような、雨も風も陽の光も、すべてを受けとめてくれるような寛大さを感じる。そんな大人の彼に咲良はどうしようもなく安心感を抱く。
 恭平が今日までこんなふうに結ばれることを急がなかった理由もわかった。不器用で堅物な咲良のことを理解した上で、待っていてくれた、大事にしてくれていたのだ、と。
 何もかも初めてをくれる存在……彼のことが頼もしく愛おしい。そんなふうに改めて実感する。
 咲良が恭平の逞しい腕に縋っていると、濡れた睫毛にかかる彼の吐息がかかる。くすぐったくて瞼を開けば、至近距離にいた彼が甘く囁きかけてきた。
「咲良、好きだよ。愛してる」
 甘い感傷をくれる衝撃に、咲良は身悶えた。
 自分も何かを言わなくてはと考えている間にも恭平の唇が触れてきて、じゃれ合うように啄み合う。
「くすぐったい……」
 彼の指に耳をくすぐられて思わず仰け反れば、首筋やうなじに触れられて、咲良は息を弾ませた。
「だめだよ。逃げても離さない」
 恭平の腕に囲われて咲良は観念する。
 さっきの彼の一言ずつを永久に保存していられたらいいのに。触れ合うだけで息が途切れる。その合間に漏れる声すらも、全部記憶していられたらいいのに。
「……高宮さん」
「君も、そろそろ、名前を呼んでくれてもいいんんじゃないか?」
 恭平が懇願するように囁いた。普段ずっと大人の彼の……彼がいう『わがまま』がこんなにも心を揺さぶる破壊力のあるものであるということを再び咲良は体験する。
 叶えてあげたいという甘い衝動が沸き立つのを感じながら彼を見つめた。
 濡れた瞳に焦点が合う。それだけで彼への想いが溢れ出しそうになる。だから声にならなくて。
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