諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「もしもの話は、仕事上だけにしておきましょう。その噂話は所詮は噂でしかありませんし、俺にその気はありませんでしたよ」
 母と息子のやりとりに嗣利が呆れ顔を浮かべ、取り残された咲良を気にかけてくれた。
「そうだ。婚約者の彼女の前で、他の女性の話題など、失礼だろう。控えなさい」
「ごめんなさい。ただの親子の会話の延長だと思って、今のところは聞き流してくださる?」
 尊敬する夫にたしなめられては和葉も引き下がるしかなかったようだ。意地悪で言ったわけではないということは雰囲気でわかる。
「はい」
 咲良は素直に頷いた。
「それで? 籍は入れていくんでしょう」
 和葉は咲良の手元の指輪を目にしながら聞いてきた。
「ええと」
「結婚式はいつ頃にするの」
「式は……」
 矢継ぎ早の質問についていけずあたふたするばかりの咲良に、恭平がすかさずフォローを入れる。
「まあまあ、待ってくれよ。結婚するつもりがあるからこそ、今夜は彼女を紹介をしたかったんだ。そのあたりのは食事をしながら追々話をさせてくれ」
 まずは乾杯から、と食前酒をいただくことにした。
 それでもやはり和葉は気にかかるようで根掘り葉掘りと二人のなれそめを聞かれた挙句、どこの式場がいいか決めましょうなどと言い出した。
「具体的なことはまだ何も決まっていない」と、恭平が釘を刺すように言うと、とうとう和葉は興味を失ったらしい。夫の嗣利の仕事や自分の外交官の妻としての在り方などの演説をはじめてしまった。
 恭平がやや呆れた顔でごめんな、と目線をくれる。けれど、色々と質問攻めされるよりもかえって興味深い話が聞けたので咲良としては助かった。
 それに、咲良が好奇心を覗かせたことで嗣利や和葉も興が乗ったのか色々と参考になる話を広げてくれたので、充実した時間がもてたように思う。
 世界情勢なども含めてあらためて地球は広いと思わざるを得ない。日本と世界を繋ぐ仕事に携わる彼らを改めて咲良は尊敬の眼差しで見ていた。
 恭平も自分の両親が咲良と和やかに会話をしている様子にはまんざらでもない感じだった。
 また具体的な話が決まったらすぐにでも報告する。
 そう一言を残して彼らとは別れた。
「――すみません。私のせいですよね。具体的な話をさせてあげられなくて、恭平さんを困らせてしまいました」
 恭平とふたりになってから咲良はすぐに彼に謝った。
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