諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「今夜、このあともずっと一緒にいてくれるよな?」
「……はい。私も同じ気持ちです」
 初めて結ばれた日以来、熱い夜を何度も過ごした。
 何も知らなかった恋が色をつけていき、恭平との思い出を重ねていた。その分だけ絆は深まって想いは濃くなっていくようだ。
 けれど、それは離れる日が近づいていくことをも同時に意味するものでもある。
 いつか思い出は色褪せていく日が来るものだ。離れていても変わらないでいられるだろうか。そんな不安に駆られることもある。
 否、離れているからこそ再会したときに成長を見せられたらいい。そんなふうに鼓舞する気持ちが沸き立つ。
 そんな両極の感情に揺れてしまう。その天秤の比重は日によってまちまちだ。
 自分で決めたことなのに離れがたいと思うなんて。
咲良にとって仕事がすべてだと思っていた頃からは考えられない感情だ。
『誰かに頼らなくても暮らしていけるようにしよう』
『奇跡に縋るよりも努力を重ねよう』
『運命を信じるよりも現実を生きよう』
 高校生の時から自立心が高かった咲良は、そんなふうに肩肘を張るようにひとりで生きていくことを考えていたけれど、今は考え方が少し変わってきていた。
 この運命の出会いと奇跡に感謝をして生きよう。彼のために自分のためにもっと努力をしようと思うのだ。
 ――このときは、そんな咲良の新たな決意が揺らぐできごとが間近に迫っていたとは知らなかった。



■3章 別れの決意



 一年の大半を占めるほど長かった夏も気付けばあっという間に過ぎ去っていて、やがて十月も半ばになると、いよいよ恭平が渡仏する日がやってきた。
 これから先もずっと一緒にいるのだから、と大仰な別れの挨拶はやめようと二人で約束した。
 とはいえ、「それじゃあ、また」と恭平が空港から発つのを見送ったあとは、やっぱり寂しさのあまりにしばらく途方に暮れた。
 それでも、明日からはまた仕事に追われる日々に歩みを重ねていくことになる。恭平が頑張っているのだから、自分も頑張らなければ。
 離れていても空は一つに繋がっている。世界は広いが地球は一つだ。交通手段も連絡手段も恵まれた時代にある。しばらく直接会うことは難しいが、いつかはまた会える。
 頑張ろう。待っていてくれる彼に相応しい女性になるために。自分の叶えたかった目標に達することができるように。
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