諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「この間の初めてのご挨拶のときには、私はてっきりあなたも一緒に渡仏するのかと思ったのよ」
「それは……」
 たしかに説明不足のままだった。あの場では具体的なことが決まったら報告すると濁したのだ。まだ何も詳細がわかっていないから。
 今さらそんな弁明を彼女が聞いて納得するとは思えない。咲良はひとまず和葉の意見を聞くほかになかった。
「あのあと、私は夫と一緒に仕事で米国に行っていたのだけれど、恭平が秋になったら渡仏すると言っていたから、日本に戻る前に一度、休暇をとって欧州の方へ立ち寄ったのよ。そしたら、あなたの姿がなかったから事情を聴いたの」
 恭平が問い詰められる場面が容易に思いついた。彼は春の着任に向けて忙しいのもあるが、きっと咲良に心配させないように事情を報せていないのかもしれない。きっと和葉をうまく論破したのだろうとは窺える。
 だからこそ納得のいかなかった和葉はこうしてわざわざ咲良の前に現れた。きっとここまでは恭平は予想はしていないかもしれない。
 咲良の方こそ恭平にばかり負担をかけるようではいけない。なんとか和葉にわかってもらわなければ、と四苦八苦しながら整理している間にも、和葉の方が先にきっぱりと言い切った。
「婚約は破談にしてしまいなさい」
「……っそんな、待ってください」
「私はあなたが外交官の妻に相応しいとは思えません」
「なぜ、でしょうか。それは、恭平さんの意見を踏まえた上でのご意見なのでしょうか」
 とっさに咲良は口を挟んだ。
 まずは一言だけでも追撃しなければ、いつまでも和葉は自分の主張だけを通そうとするだろう。
 一瞬、意表を突かれたような顔をする和葉だったが、すぐに彼女は呆れたように深々とため息をついた。
「あなたが通訳として研鑽を積んで努力をなさっていることは認めて差し上げましょう。恭平の仕事上の見る目は確かだわ。けれど、外交官の妻としてはそれだけでは足りないのよ」
 和葉はそう前置きをした上で、あるものを目の前に差し出した。
「勝手ながら、あなたの素性をある程度調べさせていただいたわ。もちろん、プライバシーには配慮しました。先日お話を聞いた上での常識の範囲内のことだから安心してちょうだい」
 これをあなたにあげておくわね、と差し出したそれは、旅館のお土産だ。
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