諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 強張った表情をせめて悟られないようにしなくては。そんなふうに考えたときでさえ、恭平のことが思い浮かんでしまい、不甲斐ない自分に泣きたくなってしまった。


 意気消沈したまま自宅に帰ったあと、咲良はルームウエアに着替えてさっそくベッドに横になった。
 あまりにも無気力だった。この先どうしていくか考えなくてはいけないのに、だるくて何もする気になれなくて目を瞑る。その間にも日に日にお腹の子は成長していくというのに。
 こんな自分が本当に母親になれるのだろうか。何も誇れるものがない今の自分になんの価値があるというのだろう。
 真っ暗な底なしの闇に落ちていくみたいに、意識がゆっくりと沈んでいく。そうして暫くうとうとしていると、スマホに着信があった。
 空気を割るような着信音にハッとしつつも、あまりの気怠さですぐには動けずに、力のない手でスマホを握り表示された画面を確認する。
 祖父母からだった。
 あれ以来、何度か連絡が入っていたもののどう話をしていいかもわからず体調がすぐれなかったこともあって取り合っていなかった。
 さすがにここまで長い間ずっと無視していたら心配をかけてしまうだろう。
 一瞬迷いながらも、咲良は横になったままで通話をオンにする。
『ああ、さくらちゃん! やっと出てくれた!』
「ごめんなさい。何度か電話をくれていたのに。まさか、ひょっとして、おじいちゃんに何かあった?」
 自分のことで精一杯だったが、そういうことだってありえるのだと今さらながら青ざめた。
『いいえ。あのひとならピンピンしてるわ。それはいいのよ』
「そ、そう。それならよかった」
 咲良はほっと胸を撫でおろす。
 しかし電話の向こうの声が暗い。
『ただ、気がかりで……何かっていうと、実は、高宮さんという方がいらっしゃったの』
 一瞬、咲良は和葉のことを思い浮かべて言葉を止めた。体調の悪さで、そのことすら忘れかけていた。
「……ええ。知っているわ」
『息子のお付き合いしている女性の実家がどんなところか、たまたま立ち寄ったという話だったけれど、なんだか胸騒ぎがしてたまらなかったの』
「そう」
『さくらちゃん、あなた、お付き合いしている人がいたのね。この間はそんな人いないなんて言ってたのに』
 恭平のことを想うと、何度でもまた泣きたくなってしまう。
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