諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 もっともらしいことを言いながら、結局、自分は彼への愛よりも自分の仕事を優先した。別れの後に妊娠がわかったのは咲良の不義理な行動の因果応報なのかもしれない。今さら彼に頼ることはできるはずがない。
 たとえ彼が再び受け入れてくれたとして、今の咲良では前以上に彼の足を引っ張るだけだ。体調は日に日に悪くなっていくし、今の仕事さえ続けていけるのかもわからない状況だ。
 果たして、この先ひとりで産んで育てていけるのだろうか。毎日、不安ばかりが胸に迫ってくる。はっきりいって、とても自信がなかった。
 でも、堕胎するという選択肢は浮かばなかった。芽生えた命を摘むことなんて惨いことはできない。そういう良心の部分だけではなく、勝手かもしれないが、恭平への愛を捨てきれなかったのだ。
 彼への愛より自分のことを優先したくせに、相も変わらず心の中では彼のことを変わらずに愛している。きっとずっと忘れることなんてできない。ならば自分ができることはなんだろうか。何もないかもしれないが、せめて……彼との愛の証は大事にしたい。二人の間にできたお腹の子を守りたい。
 日々向き合って考えを整理するにつれ、そんなふうに不安はやがて覚悟へと変わっていった。
 先輩たちの話によれば、つわりはひとそれぞれだということだった。有給休暇を消化したあと、改めて上司に相談したら今の仕事を続けられるかもしれないと一度は思ったが、ある懸念点があった。
 それは、恭平との交際を知っている人がいるということだ。会社で通訳の仕事を続けていたら、またいつか彼との接点が生まれてしまうかもしれない。今は彼は海外にいるけれど、恭平が日本に戻ってきたら、察しのいい彼に事実を知られてしまうかもしれない。そればかりか、以前にも咲良が不安に思っていたように、和葉がまた何か行動を起こすかもしれない。
 覚悟の次に芽生えたのは親としての感情だった。
 まずはこの子を守ることからすべきなのではないか、と。
 とにかく有給消化したあとも体調がままならないまま職場に迷惑をかけるだけになるのはいたたまれない。
 咲良は迷った末、年明け早々に職場に相談したあと、実家にも改めて連絡を入れた。
 本当はこんな形で頼るつもりではなかったのだけれど。今は――祖母が言った通り、これから生きていくためにも、ほんの少し回り道をする必要がある。そう結論づけたのだ。
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