諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「咲良さん、何かトラブルでもあった?」
なかなか戻らなかったからだろう。仲居が心配そうに声をかけてくる。彼女の足元にはしっかりと彼女の手を握っている恵茉の姿があった。咲良はしまった、と思う。
「さっきまで大女将と一緒にいたところだったんですが……咲良さんの姿が見えなかったので連れてきたんです」
「すみませんでした。時間になってしまうところでしたね」
「いえいえ。それよりも咲良さん、なんだか顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」
「ええ。平気です。ちょっと久しぶりにお客さんが多くなってきたので張り切ってしまっただけです」
「じゃ、後は私が引き継ぐから、任せて」
「ありがとうございます」
「ママ―?」
娘の恵茉が咲良を見上げていた。朝の仕事が終わったら保育園に送っていかなければならない。
けれど、むしょうに離れがたくなってしまった。
せめて、恵茉が恭平に見つからなくてよかった、と思う。
「おいで、恵茉。大丈夫。私は長生きするからね、絶対に……あなたを守るからね」
咲良は余計な思考を追い出すように、自分に言い聞かせるように口にしながら恵茉を抱きしめたのだった。
***
旅館を離れたあとも、咲良とばったり会ったことがいつまでも恭平の頭からは離れなかった。
咲良と最後に会った日のことを思い出す。彼女の髪型は変わっていたし、少し痩せたような気がするけれど、雰囲気はあの頃のまま……咲良に違いなかった。
あまりに幻想的な淡い風景の中、突然の再会だったから幻のようにも感じてしまったが、人違いのはずがなかった。その証拠に、咲良、と名前を呼んだときの彼女の反応が全てだ。
あのとき、体中の全ての血液が沸騰するのではないかと思うくらい滾った。今も、恭平の感情は忙しなく波立っている。
(咲良……どうして、君は)
その疑問が解けない。真実が知りたくて仕方なかったのだ。
恭平が日本に戻ってきたのは三年と半年ぶりくらいになる。咲良と別れの電話以来、一度も帰国はしていなかった。
なかなか戻らなかったからだろう。仲居が心配そうに声をかけてくる。彼女の足元にはしっかりと彼女の手を握っている恵茉の姿があった。咲良はしまった、と思う。
「さっきまで大女将と一緒にいたところだったんですが……咲良さんの姿が見えなかったので連れてきたんです」
「すみませんでした。時間になってしまうところでしたね」
「いえいえ。それよりも咲良さん、なんだか顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」
「ええ。平気です。ちょっと久しぶりにお客さんが多くなってきたので張り切ってしまっただけです」
「じゃ、後は私が引き継ぐから、任せて」
「ありがとうございます」
「ママ―?」
娘の恵茉が咲良を見上げていた。朝の仕事が終わったら保育園に送っていかなければならない。
けれど、むしょうに離れがたくなってしまった。
せめて、恵茉が恭平に見つからなくてよかった、と思う。
「おいで、恵茉。大丈夫。私は長生きするからね、絶対に……あなたを守るからね」
咲良は余計な思考を追い出すように、自分に言い聞かせるように口にしながら恵茉を抱きしめたのだった。
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旅館を離れたあとも、咲良とばったり会ったことがいつまでも恭平の頭からは離れなかった。
咲良と最後に会った日のことを思い出す。彼女の髪型は変わっていたし、少し痩せたような気がするけれど、雰囲気はあの頃のまま……咲良に違いなかった。
あまりに幻想的な淡い風景の中、突然の再会だったから幻のようにも感じてしまったが、人違いのはずがなかった。その証拠に、咲良、と名前を呼んだときの彼女の反応が全てだ。
あのとき、体中の全ての血液が沸騰するのではないかと思うくらい滾った。今も、恭平の感情は忙しなく波立っている。
(咲良……どうして、君は)
その疑問が解けない。真実が知りたくて仕方なかったのだ。
恭平が日本に戻ってきたのは三年と半年ぶりくらいになる。咲良と別れの電話以来、一度も帰国はしていなかった。