諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
日中、恵茉を保育園に預けている間に会うならばまだいい。ひとりの時に声をかけられても仕事中だと拒み、そして彼から離れてしまえばいいだけのこと。彼だって仕事中の従業員にまとわりつくような真似はしないだろう。
とはいえ、いつ訪ねてくるかわからない以上、気が休まらないままでいるのも咲良にとっては仕事に差し支えるので困る。
恭平がフランスに発ってから三年と半年ぐらいが経過しているはずだ。彼は向こうで公使という立場にいたと思うのだが、海外赴任が終わってこちらにいるということなのだろうか。いつから東京にいたのだろうか。それとも一時的な帰国なのだろうか。今、彼がどんな職務についているのか咲良にはわからないし知る由もない。
いずれにしても恭平が再び訪れる前に旅館から離れるべきなのだろうか。秘密を抱えている以上、そうして彼から逃げ回ってこれからも暮らしていくことになるのだろうか。
もういっそ本当のことを話してしまうべきか。
そんなふうに心が傾いたとき、咲良は和葉と対峙した日のことを思い出してハッとする。
『わかってちょうだい。感情的な結末は二人に影響を与えない。この結論こそが、恭平のためになることなの』
咲良だってあのとき充分に納得したはずだ。
あのときなんのために覚悟を決めて別れを選んだというのだろう。今までどんな想いでここで暮らしてきたというのだろう。こんなふうにうだうだしている自分に対して憤りが募る。
そもそも、彼にはもう和葉があのとき用意した婚約者の梨乃と、既に結婚しているかもしれないのだ。
そうでなくても、彼はもうとっくに他の人のものになっているかもしれない。将来の伴侶を得ている可能性だってある。彼にとって理想の人が――。
そう考えたら胸に穴があきそうになった。
恭平に会うこともその真実を知ることも怖い。
ならば何も知らずに彼と接点を持ってはいけない。やはり恵茉のことも隠し通すしかない。万が一知られたとしても彼には関係ないと押し通すしかない。
それが、二人のためだ。
今さら自分がこれ以上傷つくことも、彼に重荷を与えることもしたくない。
咲良は何度も何度も自分に言い聞かせた。
呪文のようにそうして刻み込んで、間違った選択をしてしまわないように。
それなのに。
なぜ神様は一度放した縁から逃れることをこうも赦してくれないのだろう――。
とはいえ、いつ訪ねてくるかわからない以上、気が休まらないままでいるのも咲良にとっては仕事に差し支えるので困る。
恭平がフランスに発ってから三年と半年ぐらいが経過しているはずだ。彼は向こうで公使という立場にいたと思うのだが、海外赴任が終わってこちらにいるということなのだろうか。いつから東京にいたのだろうか。それとも一時的な帰国なのだろうか。今、彼がどんな職務についているのか咲良にはわからないし知る由もない。
いずれにしても恭平が再び訪れる前に旅館から離れるべきなのだろうか。秘密を抱えている以上、そうして彼から逃げ回ってこれからも暮らしていくことになるのだろうか。
もういっそ本当のことを話してしまうべきか。
そんなふうに心が傾いたとき、咲良は和葉と対峙した日のことを思い出してハッとする。
『わかってちょうだい。感情的な結末は二人に影響を与えない。この結論こそが、恭平のためになることなの』
咲良だってあのとき充分に納得したはずだ。
あのときなんのために覚悟を決めて別れを選んだというのだろう。今までどんな想いでここで暮らしてきたというのだろう。こんなふうにうだうだしている自分に対して憤りが募る。
そもそも、彼にはもう和葉があのとき用意した婚約者の梨乃と、既に結婚しているかもしれないのだ。
そうでなくても、彼はもうとっくに他の人のものになっているかもしれない。将来の伴侶を得ている可能性だってある。彼にとって理想の人が――。
そう考えたら胸に穴があきそうになった。
恭平に会うこともその真実を知ることも怖い。
ならば何も知らずに彼と接点を持ってはいけない。やはり恵茉のことも隠し通すしかない。万が一知られたとしても彼には関係ないと押し通すしかない。
それが、二人のためだ。
今さら自分がこれ以上傷つくことも、彼に重荷を与えることもしたくない。
咲良は何度も何度も自分に言い聞かせた。
呪文のようにそうして刻み込んで、間違った選択をしてしまわないように。
それなのに。
なぜ神様は一度放した縁から逃れることをこうも赦してくれないのだろう――。