諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
恵茉は誉められたのがわかったのか、まんざらでもない様子ではにかんでいる。恭平の表情はますますとろけるような甘いものに変わる。
恭平はそれから思い立ったように抱えていた鞄の中から一冊の本を取り出した。
「これを君に」
それは大人の掌くらいのサイズで、恵茉くらいの幼い子どもにしては胸に抱えるくらいの大きさだ。それはいつかの日、見たことのある装丁だった。間違いなければ、それは恭平が咲良に教えてくれた詩集。二人を繋いだ思い出の……。
「きっと君の宝物になるよ」
恵茉はまだそれがどんなものなのかわからないのだろう。絵の部分だけを眺めて首を傾げている。挿絵はあるものの絵本と違い、文字の方がずっと多い。
「ママに読んでもらうといい」
「はい!」
「返事の仕方がママにそっくりだな」
そっと躊躇いつつもやさしく頭を撫でる恭平に、恵茉も引き続きまんざらでもない様子だった。
受け取ってはいけないと、引き離すべきだったのに動けなかった。
本来ならば――その光景は当たり前にあるものだったのかもしれない。そんなふうに思ってしまったからだ。罪悪感と恋慕と愛しさと色々な感情が胸の中に溢れて言葉にならない。
(どうして、私は……)
せめて涙が溢れてしまわないようにぐっと堪えるだけだった。
恭平は名残惜しそうに恵茉から離れると、立ち上がって咲良をまっすぐに見た。
「しばらく日本にいるんだ。君の仕事を邪魔するわけにはいかないから今日のところはこれで。また明日会いに来るよ」
じゃあ、と恭平は踵を返した。
「私はもう会いませんから! この本はお返しします。旅館の受付に預けておきますから!」
咲良の返事を待つことなく、彼は遠ざかっていく。
さっきのは承諾を必要としていない彼の宣言だ。どうしよう、と咲良はうなだれる。
「ママ―! ほんほん、よんで」
恵茉が瞳を輝かせている。
これではダメだと言えるわけがない。
「ページを開かなくてもママならお話を教えてあげられるのよ」
だって何度も読んだから。
思い出が詰まった詩集だから。
「風が冷たくなってきたから入りましょう」
咲良は恵茉の手を引いて旅館の住居棟の方へと急ぐ。振り向いた先に彼の姿はもう見えなくなっていた。
恭平はそれから思い立ったように抱えていた鞄の中から一冊の本を取り出した。
「これを君に」
それは大人の掌くらいのサイズで、恵茉くらいの幼い子どもにしては胸に抱えるくらいの大きさだ。それはいつかの日、見たことのある装丁だった。間違いなければ、それは恭平が咲良に教えてくれた詩集。二人を繋いだ思い出の……。
「きっと君の宝物になるよ」
恵茉はまだそれがどんなものなのかわからないのだろう。絵の部分だけを眺めて首を傾げている。挿絵はあるものの絵本と違い、文字の方がずっと多い。
「ママに読んでもらうといい」
「はい!」
「返事の仕方がママにそっくりだな」
そっと躊躇いつつもやさしく頭を撫でる恭平に、恵茉も引き続きまんざらでもない様子だった。
受け取ってはいけないと、引き離すべきだったのに動けなかった。
本来ならば――その光景は当たり前にあるものだったのかもしれない。そんなふうに思ってしまったからだ。罪悪感と恋慕と愛しさと色々な感情が胸の中に溢れて言葉にならない。
(どうして、私は……)
せめて涙が溢れてしまわないようにぐっと堪えるだけだった。
恭平は名残惜しそうに恵茉から離れると、立ち上がって咲良をまっすぐに見た。
「しばらく日本にいるんだ。君の仕事を邪魔するわけにはいかないから今日のところはこれで。また明日会いに来るよ」
じゃあ、と恭平は踵を返した。
「私はもう会いませんから! この本はお返しします。旅館の受付に預けておきますから!」
咲良の返事を待つことなく、彼は遠ざかっていく。
さっきのは承諾を必要としていない彼の宣言だ。どうしよう、と咲良はうなだれる。
「ママ―! ほんほん、よんで」
恵茉が瞳を輝かせている。
これではダメだと言えるわけがない。
「ページを開かなくてもママならお話を教えてあげられるのよ」
だって何度も読んだから。
思い出が詰まった詩集だから。
「風が冷たくなってきたから入りましょう」
咲良は恵茉の手を引いて旅館の住居棟の方へと急ぐ。振り向いた先に彼の姿はもう見えなくなっていた。