諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
「旅館協会の会合には参加してきたんだからいいじゃろう。議題として、今後ここに呼ぶつもりの支配人をそろそろ決定しないといけないと思ってたんじゃが、よそもんがどうのとか信頼できる筋はどうのとか話が長引いて結局まとまらんくて持ち越し。疲れてしまったわ」
うんざりしたように祖父が言う。祖父も祖父で色々と気苦労が耐えない。祖母に尻に敷かれているように見えて、外では頼りにされている人なのだ。
「じいじ」
はい、と恵茉が本を差し出す。本の文章に顔を近づけたり遠ざけたりして祖父が苦笑する。
「なんだ? 年寄りには読めんなぁ。咲良がいてくれんと困るのお」
ちらりと祖父が何かを言いたげにしている。
「もう、わかったわよ。ちょっと荷物を片付けてくる。それと、恵茉も手を洗ってうがいをしてね」
「はぁい」
ここは暖かい場所だ。だから咲良と恵茉はこの安寧の地でやってこられた。咲良が居たいと言えばきっとずっと置いてくれるだろう。けれど祖父母は永遠にここにいるものとは考えていない。いつかは咲良と恵茉が巣立っていくものだと思っているのだ。だから、若女将にしたいとは言われたことがないし、旅館の経営を任せたい跡継ぎ候補もやはりきちんと決めているようだ。
この観光地において重要な役割を担う旅館になった以上、もう旅館は代々の先祖が残してくれたとはいえ祖父母のものだけではない。地元や観光業界から継承を望まれている。正式に跡継ぎの人が決まれば、彼はいずれお嫁さんを迎え入れるかもしれない。
恵茉は今年の夏で三歳になる。子どもの成長は止められない。例えば、恵茉が小学生になる前に、いずれここから出て行かなくてはならないかもしれない。咲良もぼんやりとした考えは持っていた。
今日、恭平と再会するまでは――。
■6章 未来へのプロポーズ
その後も、毎日通い詰める恭平の姿は、他の仲居にも知られることとなり、何かを感じつつあった祖父母にもとうとう隠しきれなくなってきていた。
思えば、恭平は出会った頃から強引な一面があったのだった。物腰穏やかではあるが、こうと決めたら曲げない意思がある。咲良の堅物な頑固さとはまた違った強固さがあった。
押しかけられては困ると思いつつも、恭平にあれ以上辛く当たることもできない。惚れた弱みというものはこういうことをいうのだと、咲良はつくづく思い知った。
うんざりしたように祖父が言う。祖父も祖父で色々と気苦労が耐えない。祖母に尻に敷かれているように見えて、外では頼りにされている人なのだ。
「じいじ」
はい、と恵茉が本を差し出す。本の文章に顔を近づけたり遠ざけたりして祖父が苦笑する。
「なんだ? 年寄りには読めんなぁ。咲良がいてくれんと困るのお」
ちらりと祖父が何かを言いたげにしている。
「もう、わかったわよ。ちょっと荷物を片付けてくる。それと、恵茉も手を洗ってうがいをしてね」
「はぁい」
ここは暖かい場所だ。だから咲良と恵茉はこの安寧の地でやってこられた。咲良が居たいと言えばきっとずっと置いてくれるだろう。けれど祖父母は永遠にここにいるものとは考えていない。いつかは咲良と恵茉が巣立っていくものだと思っているのだ。だから、若女将にしたいとは言われたことがないし、旅館の経営を任せたい跡継ぎ候補もやはりきちんと決めているようだ。
この観光地において重要な役割を担う旅館になった以上、もう旅館は代々の先祖が残してくれたとはいえ祖父母のものだけではない。地元や観光業界から継承を望まれている。正式に跡継ぎの人が決まれば、彼はいずれお嫁さんを迎え入れるかもしれない。
恵茉は今年の夏で三歳になる。子どもの成長は止められない。例えば、恵茉が小学生になる前に、いずれここから出て行かなくてはならないかもしれない。咲良もぼんやりとした考えは持っていた。
今日、恭平と再会するまでは――。
■6章 未来へのプロポーズ
その後も、毎日通い詰める恭平の姿は、他の仲居にも知られることとなり、何かを感じつつあった祖父母にもとうとう隠しきれなくなってきていた。
思えば、恭平は出会った頃から強引な一面があったのだった。物腰穏やかではあるが、こうと決めたら曲げない意思がある。咲良の堅物な頑固さとはまた違った強固さがあった。
押しかけられては困ると思いつつも、恭平にあれ以上辛く当たることもできない。惚れた弱みというものはこういうことをいうのだと、咲良はつくづく思い知った。