諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 恭平が咲良の現状や恵茉のことを理解し、受け入れてくれるというのだから何も問題はないのではないか、と揺れる気持ちがあるのは確かだ。
 けれど、咲良の脳裏には別れを決意した日のことがどうしても蘇ってくる。あれほど勝手な別れを告げたのに今さらという気持ちと、こんな自分が恭平の重荷になってしまわないだろうかと考えてしまうのだ。
 今はひとりだけじゃない。恵茉のことだってある。
恭平と一緒になるということは、また義母である和葉に会うことにもなるだろう。彼女は咲良にとって強敵といわざるをえない脅威だ。
 たとえば、妊娠した時にも同じように懸念したことでもあったが、恭平の子だということで和葉に恵茉をとられてしまうのではないかという不安が募ってしまう。
 臆病になりすぎているのではないかと自問するものの、否、慎重になるべきだし自分一人の問題ではない……そう思えば思うほど、二の足を踏んでしまう。
「……はぁ」
 考えても考えても一向に答えが出ない。これだという結論を見出せずにまた振り出しに戻るだけ。
 眠れなくて困る。仕事に差し支える。迷惑がかかる。一人の問題じゃない。
 そんなふうに言い訳をいくつも並べてもきっと恭平はよほど説得力のある理由を提示しない限りは折れてはくれないのだろう。
(どうしたらいい。どうすべき……)
 旅館の庭の桜の木もだいぶ花が綻んできた。まわりの観光地の桜並木も日に日に花が開いていく。
 きっと季節を先ゆく東京は今頃、半分くらいは葉桜に変わってしまっているかもしれない。
 恭平はしばらく日本にいると言っていたけれど、長期的な意味ではなさそうだ。彼はいつまた日本を発つのだろうか。それまで咲良と根競べをするつもりだろうか。
 本を返すと言ったのに、恭平は次から次へとまた新しい詩集の本を持ってくるので返せないどころか増える一方だ。困惑する咲良の側で何も知らない恵茉はいつの間にか恭平が本を持ってくるのを楽しみに待つようになってしまった。
 最初は恭平も遠慮して住居棟側の裏門の外側で待っていたけれど、今や咲良の勤務時間が終って恵茉を保育園に迎えに行った帰りの時間頃を見計らい、堂々と会いに来るようになった。
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