諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 恵茉もそれを理解していた。いくら早めに保育園に迎えに行くのを早めても、帰ってきてから住居棟の二階や本館の庭先の窓辺から外を眺め、恭平の姿が近づくのが見えると、うさぎが跳ねるように玄関へと駆けて行ってしまうようになっていた。
 当然、咲良は恵茉を追いかけるように外に出ることになる。そして――否応なしに恭平と会うことになるのだった。
「はぁ。もしかして、あなたの作戦はそういうこと?」
 恭平が通い詰めるようになって早十日程。咲良はとうとう拒む以外の言葉を交わすほかになくなった。
 やさしく夕暮れの光に照らされる庭先の中、恭平ははぐらかすように笑った。
「もちろん可愛いお姫様を利用するつもりはない。君に似た笑顔を見ると、喜んでくれる姿が可愛くてつい構いたくなるんだよ」
 恭平のそれはきっと本心でもあるんだろう。でも、それだけではないはずだ。
「……そういうところですよ」
 咲良はぼそりと呟く。確信犯なのではなく意図的にそうするのではなく、恭平はごく自然に行動に移してしまう。昔もそうだった。交渉上手の人たらしなのだ、彼は。
 ジッと非難の目を向ければ、
「ただ……離れがたいだけだよ」
 恭平が寂しそうに言う。彼のその言葉や表情に、咲良は思いがけず言葉を詰まらせた。
 何も言えなくなったそのとき、彼と視線が交わって不覚にもドキリと鼓動が波打つ。
「俺の未練に君をいつまでも付き合わせるわけにはいかないっていうこともわかっているさ。だが、君をそういう寂しそうな顔をしたままにもしていたくないんだ」
 恭平の押しの強さをそのまま受けとめていたら、いつかきっと流されてしまう。だから必死に咲良は惑わされないようにと踏みとどまる。
「私は、寂しくなんてありませんでしたよ。ここは私が幼少の時に育った場所なんです。出産のときだって祖父母が力になってくれました。従業員の皆もやさしくて……何より恵茉が側にいましたから」
 強がりと本音とが織り交ざる。それを見透かされないように咲良は俯いた。
「うん。安心したよ。君にとって寄る辺があったことだけは……俺も感謝してる。本当によかった」
 恭平のその言葉に、咲良はカチンときてしまった。
 彼の言い方が腹立たしいとかそういうものではない。
「どうしてそんなことを言えるんですか。私が勝手にしたことで、あなたが感謝する必要なんて……ないじゃないですか」
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