諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 恭平はそう言い添えたあと、咲良をまたまっすぐに見た。
「君の返事がほしい」
 断り続ける咲良に、恭平はとうとう言葉を止めてしまった。彼にだって時間はない。いつまでも根競べをしている場合ではないだろう。
 これが最後――。
 それならば、もう次の別れは永遠の別れを意味することになる。咲良が勝手に身を隠した別れではなく、今度こそ、二人が決めた本当の別れになるのだ。
 そう意識した途端、胸の中に寂寞したものがじわじわとこみ上げてくるのを感じながら、咲良は恭平を見つめた。
「俺はもう後悔したくないし、君にも後悔させたくないんだ。この先、もう二度と後悔させない。咲良、どうか俺の手をとってくれないか」
 後悔はしたくない。
 もう二度と後悔させないと彼が言う。
 恭平の側に行きたい。彼のことが愛しい。彼が手をとってほしいと言ってくれている。許されるなら、本当は彼のところに飛び込んでしまいたい。
 でも……。
 それじゃあ過去の決断は?
 今までの暮らしは?
 重ねてきた時間は?
 どれもなかったことになんてできない。
 自分のため彼のため恵茉のため、そうして選んできた今までの経験は、この先の未来のためだったはずだ。
「今さら……」
 咲良は震えそうになる声を唇を噛んでこらえた。
「今、だからだろう。今しかないからだろ。咲良」
 恭平が縫い留めるような視線を向けてくる。
 その間にも、これまでの様々なことが脳裏をよぎって息苦しい。わからない。何が一番いい選択なのか。そうして咲良を雁字搦めにしていってしまう。
 混乱を極めた咲良が少しも動けないでいると、横から声が割って入ってきた。
「いやね。頑固ものは誰に似たのかしら」
 ハッとして振り向くと、祖父母の姿がそこにはあった。
「ばあば」
 途端に恵茉が祖母の元に駆け寄っていき、祖母はやさしく恵茉を抱きしめた。
「はぁい。困ったお母さんがいるねえ、恵茉」
 恵茉をあやしたあと、祖母が咲良を見る。
「あなたには、あのとき……ひとりで恵茉を育てると決めた覚悟や勇気があったはず。ならば、今度もまた覚悟や勇気をもって彼についていきなさい。そういう運命の時がきたのよ、咲良」
 諭すように言う祖母の言葉に、こみ上げてくるものがあった。
「おばあちゃん……」
 祖母を追いかけるように祖父もついてきていた。祖父はきまりわるそうな顔をして言った。
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