諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 そういう恭平の声が震えていた。よく見れば、彼の手だって震えている。彼は咲良よりもずっと年上でしっかりした人だけれど、彼だって怖かったのかもしれないと咲良は思った。
 失う怖さを咲良は経験した。
 でも、咲良だって恭平にその怖さを与えてしまったのだ。
「もう、君を……君たちを離さないから」
 恭平がそう言い咲良を抱きしめる。咲良は彼の背に手を伸ばして目を瞑った。
 かつてない安堵に息をつく。
 この人の腕の中に戻って来たかったのだと、改めて思い知らされる。
 知り合った日から彼と重ねてきた日々。そして離れていた日々。それらが巡りくる。
 しばしそうしていた後、恭平の腕が緩んだ。彼の顔が近づいてきて、咲良はハッとする。そして思わず彼の胸を押し返してしまった。
「あ、あの……一応、その」
  咲良の動揺に遅れて恭平も気付いたらしい。
「……失礼。嬉しくて。すっかり君に夢中になってしまっていた」
 祖父母たちは離れたところにいる。でも、こちらの雰囲気は伝わっているだろう。咲良は今さらになって恥ずかしくなってしまった。
「頬が桜色に色づいて……綺麗だ。可愛い」
 いつかの日、彼と結ばれた日。彼の腕の中で、そんなふうに甘くささやいた思い出が蘇ってくる。
 恭平は知ってか知らずか、咲良をやさしく見つめてくる。そんな彼の耳も少しだけ赤い。
「今そういうのは、ずるいですよ」
 動揺する咲良に恭平はくすりと笑う。こういうところだけは確信犯だ、と咲良は思う。
「もっと話したいことは多くある。君が許してくれたなら、まだ時間はたくさんある。続きはまた今度ゆっくり語り合おう」
 咲良が頷くと、恵茉がこちらに駆け出してくる。
 咲良が両手を広げて抱きしめると、恭平が咲良と恵茉を包むように抱き寄せた。
「これから俺たちはずっと一緒だ」
 その言葉は頑なに肩肘張って生きていた咲良の心に何より心強い安堵をくれた。彼が許してくれるのならば、これからはずっと彼の傍にいよう。共に、三人で幸せになれる道を探して行こう。



■7章 強い意思で



 その後――。
 今後のことをどうするか祖父母と相談すると、旅館での仕事は気にしなくていいと言われてしまった。
 まもなくフランスに発つ彼についていくと結論を出した以上今さらうだうだ悩んでいる暇はないだろう、とすぐにも叩き出すくらいの勢いだった。
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