諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
どっと笑いが起こったところで、それじゃあと手を振った。寂しくなりすぎない別れにしてくれた従業員たちに咲良は感謝する。
(皆、ありがとう……)
それから旅館を出ると、ハイヤーが待機していた。三人はそのハイヤーに乗り、一度東京に向かうことになっている。
その前に、咲良は母のお墓参りをすることにした。故郷の街をしばらく離れることになるから挨拶をしておきたかった。
すると、お墓の前に祖父がいたから驚いた。
「なんだ。おまえはまだいたのか」
そう言いながら空を仰いでこちらを見ようとしない。板前が言っていたことを思い出して、咲良はちょっぴりふふっと笑ってしまった。
「大旦那様がいないって皆探してたよ」
正確には探していたというか気にかけていたのだけれど。でもよかった。咲良も祖父にもちゃんと別れの挨拶をしたいと思ったのだ。
「うむ。おまえの母さんの、娘のことがなんとなく思い浮かんでな。今朝早く、華道の先生に玄関の生け花を入れ替えてもらったんだが、その時いい花材が入ったもんだから手向けようかと」
赤、白、紫、ピンク……ふんわりと花びらを広げたその花はアネモネだった。普段は割烹着や和服を着ていた母が休日に好んで履いていたスカートの柄を思い出す。
ふと、咲良は母のやさしさを思い出してから恵茉の頭をそっと撫でながら祖父に尋ねた。
「お母さんが好きだった人とは……一緒になれなかったの? 私みたいにすれ違ったりしていたのかな」
母には聞けなかったし、祖父母にも言及はできなかった。暗黙の了解のように咲良には父親がいないということだけを受けとめていたけれど、やはり気にならなかったわけじゃない。
どんな人なのだろうと想像を膨らませていたこともあったし、いつかは会えるのではないかと思ったこともあった。結局それは叶わずじまいだったが……。
「一度だけ。ここに来たお客さんじゃった。しかし昔からの知り合いのようだった。私たちも詳しいことはわからないまま。だが、彼も既に他界していてね。ハガキだけが届いた。色々あったが独りでずっといたらしい。まあ、運命さえ許せば、叶えられたこともあったかもしれないなぁ」
祖父はそう言って花を手向けると、その場に屈みこんで両手を合わせて目を閉じた。
祖父のすぐ後ろで恭平も同じようにしている。咲良も恵茉の両手を合わせて重ねながら、亡き母への想いを込めた。
(皆、ありがとう……)
それから旅館を出ると、ハイヤーが待機していた。三人はそのハイヤーに乗り、一度東京に向かうことになっている。
その前に、咲良は母のお墓参りをすることにした。故郷の街をしばらく離れることになるから挨拶をしておきたかった。
すると、お墓の前に祖父がいたから驚いた。
「なんだ。おまえはまだいたのか」
そう言いながら空を仰いでこちらを見ようとしない。板前が言っていたことを思い出して、咲良はちょっぴりふふっと笑ってしまった。
「大旦那様がいないって皆探してたよ」
正確には探していたというか気にかけていたのだけれど。でもよかった。咲良も祖父にもちゃんと別れの挨拶をしたいと思ったのだ。
「うむ。おまえの母さんの、娘のことがなんとなく思い浮かんでな。今朝早く、華道の先生に玄関の生け花を入れ替えてもらったんだが、その時いい花材が入ったもんだから手向けようかと」
赤、白、紫、ピンク……ふんわりと花びらを広げたその花はアネモネだった。普段は割烹着や和服を着ていた母が休日に好んで履いていたスカートの柄を思い出す。
ふと、咲良は母のやさしさを思い出してから恵茉の頭をそっと撫でながら祖父に尋ねた。
「お母さんが好きだった人とは……一緒になれなかったの? 私みたいにすれ違ったりしていたのかな」
母には聞けなかったし、祖父母にも言及はできなかった。暗黙の了解のように咲良には父親がいないということだけを受けとめていたけれど、やはり気にならなかったわけじゃない。
どんな人なのだろうと想像を膨らませていたこともあったし、いつかは会えるのではないかと思ったこともあった。結局それは叶わずじまいだったが……。
「一度だけ。ここに来たお客さんじゃった。しかし昔からの知り合いのようだった。私たちも詳しいことはわからないまま。だが、彼も既に他界していてね。ハガキだけが届いた。色々あったが独りでずっといたらしい。まあ、運命さえ許せば、叶えられたこともあったかもしれないなぁ」
祖父はそう言って花を手向けると、その場に屈みこんで両手を合わせて目を閉じた。
祖父のすぐ後ろで恭平も同じようにしている。咲良も恵茉の両手を合わせて重ねながら、亡き母への想いを込めた。