諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
***
渡仏した後、咲良は恵茉と共に恭平の暮らすアパルトメントについていった。物件は海外赴任者向けで駐在している日本人も多くいるらしい。
「基本的にここは独身者向けだから、三人で暮らすには少し手狭かもしれない。不便を感じたら、引っ越しを考えてもいいかもしれないな」
恭平はそう言うけれど、日本とは違う造りながら、全体的にシンプルなやさしい雰囲気が咲良は気に入った。たとえるなら洋書の装丁のような童話あるいは冒険物語に出てくる家のようで素敵だった。
最初に目に飛び込んできたのは、無垢のフローリング。それからブルーグレーの扉のついたタイル張りのカウンターキッチン。
すぐ目の前にダイニングテーブルは置かない代わりにそのままリビングに広がりが持たせられていて、キッチン含めてニ十帖ほどのスペースに右側の壁に寄せるように三人掛けのソファと読書用のサイドチェアが設えられてあり、その前に丸いフレームのテーブルがある。
側には観葉植物の鉢がいくつか置かれてあった。
照明はアンティーク調の吊り下げ式ライトがお洒落な雰囲気を演出している。なんとなく恭平が好みそうな空間だと咲良は思った。
向かい合わせの左手の壁側にはテレビ台に本棚、収納スペースなどがあった。その隣に奥まった小さなドア付きの部屋があるが、六畳もないくらいの狭い和室になっていた。
咲良と共に興味津々に探検をはじめた恵茉が狭い和室の中でぴょんぴょん跳ねている。恵茉、おいで、と咲良は手招きしつつ中を見渡した。茶室みたいな感じだ。こういう部分が日本人向けの仕様なのだろうか。
「スペースは充分ですよ。それに急に広くなると落ち着かないですし」
「そういうものかな」
「はい。もし今後、引っ越しをするとしても、こういう雰囲気のお部屋がいいです」
咲良が笑顔を向けると、恭平も微笑んだ。
「お気に召したようで何より。いずれ日本に戻ったあとの後学として、君の好みをもっと聞いておきたいな」
「私は恭平さんと好みは合うと思います」
やや興奮ぎみだったかもしれない。恭平が意表をつかれた顔をする。
「そう?」
「はい」
「君のそういう素直なところは変わらないんだな。やっぱり、いつまでも可愛いよ」
「……っか、からかい文句は禁止です」
「俺も素直な感想を言っただけなんだが」