諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
 白いシャツにシンプルな黒のパンツといった姿のリラックスした爽やかな恭平の姿に、咲良はちょっとドキドキしていた。それに対してまだ髪が乱れたままの自分が恥ずかしくなってすぐに引っ込んでは彼を笑わせた。
「付き合い立てのときを思い出すよ」
 恭平がそう言うのもまた咲良は気恥ずかしい。だが、そういう初々しい時間はすぐに終焉を告げる。やがて恵茉が起きてきて「トイレ!」と騒ぎだしたので、髪をセットする間もなく忙しくなる。
 好きな人と迎えた朝の余韻さえ与えてくれないのが子育てというもの。そんなふうにドタバタしながら新しい日常ははじまっていく。
 一段落してから、咲良は恭平がまだ休暇をとっている間に必要な情報を得ておくことにし、その後、荷物を整理したり食事をしたり生活するのに足りないものを買い出しをしたりしているうちにあっという間に時間が過ぎていった。
 それから諸々ようやく落ち着けたのが三日目の夜だった。
 和葉から探りを入れられる前に、今度は先に連絡を入れておいた方がいいだろう、という恭平は言った。咲良もそれには賛成だった。
 恭平が彼の両親に連絡を入れるのを横で緊張して待っていた咲良は、漏れ聞こえてくる和葉の怒号におそるおそる恭平の顔を見た。
 恵茉は新しい生活空間に刺激されたせいか、連日早い時間に就寝している。途中で起きる気配がないのが幸いだった。しかし和葉の前に連れていっても大丈夫だろうか、という懸念は消えない。
「大丈夫でしょうか。ものすごく驚いていましたよね」
 知らない間に孫ができていたのだから驚かないはずがない。むしろあのときに気付かれなくてよかったのだと今でも思う。知られていたらもっと拗れていた可能性だってあったのだから。想像したら咲良はぞっと血の気が引いた。
 恭平は重々しいため息をついたあと、和葉から言われたことを教えてくれた。
「とりあえず二週間後。なんとか予定を押さえるからその日に会いに来なさいと。父は仕事の都合であいにくしばらく時間がとれないらしい。母にだけでも事情を先に話しておきたい。いいかな?」
「はい」
 嗣利と和葉は行動を共にしているが、勿論常に一緒というわけではない。外交官の妻として寄り添い、時に公の場に立つこともあれば、彼女ひとりで社交界に出ることだってある。そして彼女は今、その仕事で欧州の方に出向いているということだった。
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