『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(4)
夢の中に見知らぬ女性がいた。
芸能人の誰かに似ていると思ったが、思い出せなかった。
色が白くて、ウエーブのかかったセミロングで、顔はたまご型だった。
唇はふっくらとして、鼻は高くも低くもなかった。
はっきりとした二重で、眉は薄くなだらかな曲線を描いていた。
何処にでもいそうで、実は何処にもいないタイプの女性だった。
何より、好みの女性だった。
こんな女性に巡り合って付き合うことができたらどんなに幸せだろう、と思うような理想のタイプだった。
「私を探して」
彼女がわたしの耳元で囁いた。
そして耳たぶを甘噛みした。
「君は誰?」
耳たぶを噛まれながら問いかけた。
「あなたが知っている人」
わたしは彼女の両肩を持って口を耳たぶから引き離し、真正面から顔を見た。
「君のような人は見たこともない」
「見たことがなくても名前は知っているわ」
わたしは頭を振った。
「君みたいな素敵な人とは会ったこともないし、名前を聞いたこともない」
「そんなことはないわ。私の名前は知っているはずよ。早く思い出して」
もう一度彼女の顔をじっくりと見た。
しかし、何も思い出せなかった。
「もう行かなくっちゃ」
突然、彼女はそう言って、わたしに口づけた。
マシュマロのような柔らかな唇だった。
唇を離すと、右の人差し指を突き出すようにした。
わたしにも同じようにして欲しいと言われたので、右の人差し指を突きだすと、彼女の人差し指の先端がわたしの先端に触れた。
その瞬間、接触した部分に光が灯った。
そして温もりを感じた。
「私を探して」
そう言い残して彼女が消えた。
わたしは唇に右手の中指を当てた。
彼女の感触が残っていた。
甘い余韻が消えることもなくいつまでもわたしを包み込んだ。