『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(8)→1966年


 危なかった。
 あと数秒で戻れなくなるところだった。

 わたしは荒い息が止まらなかった。
 でも、松山さんは違っているようだった。
 余韻に浸るようなうっとりとした目をしていた。

「最高だったな。イーグルスのホテル・カリフォルニアを最前列の席で聴けるなんて……」

 夢の世界にいるような表情を浮かべていた。
 確かに夢という形の中にいるのは間違いないのだが、それでも危なかったことに違いはなかった。

「次はもっとちゃんと気をつけましょうね」

 しかし、彼は何も聞いていなかった。

「今度はどこに連れて行ってくれるのかな~」

 夢見る少女のような瞳になっていた。

 わたしはドア上のディスプレーに目をやった。
 何も表示されていなかった。
 連結部のドアを見たが、開く様子はなかった。
 ロボコンは登場しないようだ。

 もう一度ディスプレーに目をやると、少し速度が上がった。
 音速になったのだろうか? と思う間もなくシートに背が沈み込んだ。

「ピパピパプパピプパ」

 音はしたが、ロボコンの姿はなかった。
 しかし、ドア上のディスプレーに次の駅が表示されていた。
 それはイーグルスのライヴから更に14年(さかのぼ)った駅名だった。
『1966年駅行き』

 それって……、

 恐る恐る松山さんに声をかけた。

「今度もレッド・ツェッペリンのライヴじゃないみたいですね」

「そうだな。通り越しちゃったな」

 見るからに気を落としているようだった。
 過去行きの電車に乗り続けている限り、『1973年駅』に行くことはないのだ。
 ガッカリするのは当然だった。

「でも、折り返しということもありますから」

 慰めたつもりだったが、松山さんは浮かない顔をしていた。
 当然だ。
 安易な慰めはなんの役にも立たない。
 わたしはこれ以上何かを言うのを止めた。

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