『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(9):1966年


 少しして、電車のスピードが落ちた。
 停車駅に近づいているようだ。
 松山さんはずっと何かを考えているようだったが、〈ん?〉というような表情を浮かべたあと、いきなり顔をわたしに向けた。

「もしかして、凄いライヴにいけるかもしれないぞ」

 表示された駅に行く意味がわかったようだった。

 それからあとは電車が駅に着くまで〈うんうん〉と頷きっぱなしで、わたしの顔を見ようともしなかった。

        *

 駅に着いた。
 今回は本人確認はなかった。
 改札を抜けると、また階段があった。
 それを上り詰めると、扉が見えた。
『1966年6月30日へようこそ』と書かれている扉が見えた。

 それを抜けるとまた扉が見えた。
『武道館へようこそ』と書かれていた。

 武道館? 
 ということは東京? 
 オリンピックの2年後の東京で誰がコンサートをやったの? 

 予想外の展開にわたしの脳は右往左往していた。

「やっぱりそうだった」

 確信に満ちたような松山さんの声が聞こえたが、その声は上ずっていた。

「まさかこれを見られるとは……」

 扉を開けようとする彼の手が震えていた。

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