『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(14)
「どうしたんだ?」
ライヴが終わった時、ヴォーカルが声をかけてきた。
「ん?」
「いや、元気ないからさ」
演奏にいつものキレがないし、アクションも決まってないというのだ。
「うん、ちょっとね……」
ごまかして帰ろうとしたが、それを許してくれなかった。
「話してみろよ」
正面から見つめられると、これ以上しらばっくれるわけにはいかなくなった。
彼女のこと、新たなオリジナル曲が欲しいことを正直に話した。
すると、「やってみようよ」という声がすぐに帰ってきた。
今までとは違う強力な曲が必要だと彼も思っていたのだという。
「いろんなリフ(繰り返される特徴的なフレーズ)を考えてくれないかな。それにメロディを乗せるから」
共作しようという。
その途端、目から鱗が落ちた。
自分だけでなんとかしようともがいていたが、誰かと一緒にやるという考えはまったくなかった。
「そうだな」
悟られたくないのでわざと低い声を出したが、心は踊っていた。
光が見えたのだ。
体の中から熱い何かが湧き出してくるのを感じて、じっとしてはいられなくなった。
思い切ってコンビニのバイトを辞めた。
曲作りに専念するためだ。
いくつものリフを考えてはヴォーカルに聞かせ、それに歌を乗せる試行錯誤が始まった。
しかし、そんなに簡単にいい曲ができるはずはなかった。
俺が考えたリフはジミー・ペイジやリッチー・ブラックモアのそれに似ていたし、ヴォーカルの歌も同じだった。
コピーの域を出ていなかった。
俺は頭を抱えた。
彼女に言われてその気になったが、改めて才能の無さを痛感させられた。
コピーバンドのリードギタリスト以上ではなかったことを思い知らされた。
カッコいいオリジナル曲を作ってデビューするという目標は夢物語でしかないと認めざるを得なかった。