『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(15)


 新しいオリジナル曲への期待が萎んでいくと、俺とヴォーカルにとどまらずバンドのエネルギーも落ちていった。
 目標が遠ざかって見えなくなってしまったのだから当然だ。
 次第にステージでの演奏に切れがなくなり、観客を煽るようなパフォーマンスも少なくなっていった。

 観客はそれを敏感に感じ取った。
 それが歓声と拍手に表れ、アンコールも求められなくなった。
 すると、今まで大事にしてくれていたライヴハウスのオーナーの態度も変わり始めた。
 それは、いつお払い箱になるかわからない危険な状態に追い込まれていることを意味していた。

「アプローチの仕方を変えてみたら?」

 元気がなくなった俺を見かねたのだろう、彼女が遠慮がちに手を差し伸べてきた。

「ドラマーが叩くリズムにギターを合わせてみたらどうかしら?」

 彼女は、レッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボ―ナムの大ファンだった。

「袋小路に迷い込んでしまったら、そこでもがくんじゃなくって、まったく違うことをしてみることも大事なんじゃないかな?」

 彼女は自らの経験を話し始めた。マウスやペン入力で描くイラストが思い通りにできない時は、紙に色鉛筆で書いたり、時には小さなカンヴァスを買ってきて油絵を描くこともあるというのだ。そうすることによって新たな視点に気づいたり、今までにない発想が浮かんでくるのだという。

「同じことをしていても(らち)が明かないと思うの。発想を変えたり、アプローチを変えてみることは大事だと思うわ」

 俺はそれをぼわ~んと聞いていた。
 演奏経験のない彼女の言葉は胸に響かなかった。
 それに、ドラマーが叩くリズムから曲を作るなんて非現実的だと思った。
 イラストを描くことと曲を作ることは違うのだ。
 心配してくれるのはありがたかったが、アドバイスを実行しようとはまったく思わなかった。

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