『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(16)
その夜の演奏は酷かった。
今までで最低の演奏だった。
ヴォーカルの声はガラガラだし、ベースとキーボードのアドリブは無茶苦茶だった。
ファンクっぽいソロやジャズっぽいフレーズが飛び出してきて、ハードロックバンドの演奏とはとても思えなかった。
そんな中、ドラムのソロが始まった。
彼は怒りで顔を真っ赤にしていた。
いつスティックを放り投げてステージから出ていってもおかしくないほど怒りに満ちていた。
しかし、その演奏はド迫力と言っても過言ではなかった。
ジョン・ボ―ナムの化身のようだった。
俺はその演奏に圧倒された。
それは観客も同じようで、会場全体が息を飲んでいるように思えた。
ドラマーが俺に目で合図をした。
そろそろソロを終えるという合図で、次は俺の番だった。
俺はドラマーに向かって両手でスティックを振る仕草を投げた。
叩き続けるようにと伝えたのだ。
ドラマーは頷き、演奏を続けた。
彼が叩き出すリズムの上にギターのリフを乗せた。
それは今まで一度も弾いたことのないリフだった。
突然、会場から手拍子が起こった。
ギターとドラムのアンサンブルに乗ってきた証拠だった。
すると、ベースが合わせてきた。
迫力ある重低音がバスドラムとシンクロした。
キーボードも合わせてきた。
オルガンの音色にチューニングした低音でベースラインとシンクロを始めた。
それに刺激されたのか、ヴォーカルが高音で歌い始めた。
無茶苦茶な英語だったが、カッコいいメロディになっていた。
会場からの歓声と手拍子が一段と大きくなった。
バンドと観客が一体となって興奮のるつぼと化していった。
俺は夢中になってギターを弾きまくった。
エンディングでベースとヴォーカルと一緒に飛び上がって着地すると、耳をつんざくほどの歓声と拍手が巻き起こった。
会場全体が揺れていた。
俺は胸がいっぱいになって泣きそうになった。
今にも涙が零れそうだった。
くしゃくしゃな顔になりながら、ここにはいない彼女を思い浮かべて礼を言った。
彼女のアドバイスがなかったらこの曲はできなかったからだ。
拍手と歓声が一段と大きくなった。
俺は両手を頭の上に上げて観客席に向かって拍手を返した。
ファンへの感謝と彼女への想いを込めて強く手を叩き続けた。
客が全員帰ってから録音を聴いた。
それを頭に叩き込んで再現した。
何度も何度も演奏を繰り返して頭と指と体に叩き込むと共に、ヴォーカルがその場で歌詞を付けて曲を完成させた。
タイトルは『Rock`n` Roll OverNight』とした。