『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(18)


 新曲のお披露目の日がやってきた。
 今夜は会場に彼女を呼んでいた。
 控室でメンバー5人が肩を組んで、掛け声をかけて、雄叫びを上げた。
 俺は両手で頬をバチンと叩いて気合を入れた。

 ステージに立つと、大歓声が迎えてくれた。
 レッド・ツェッペリンとディープ・パープルの曲を各2曲演ったあと、『Rock`n` Roll OverNight』のリフを弾いた。
 その瞬間、つんざくほどの歓声がステージに押し寄せ、ヴォーカルがシャウトをすると女性客のキャーという嬌声(きょうせい)が襲いかかった。
 熱くなった俺は乗りに乗ってギターを弾きまくった。
 それがまた観客を煽って、会場が更にヒートアップし、大歓声の中でエンディングを迎えた。

 興奮冷めやらぬ中、ヴォーカルがマイクスタンドを握って新曲の名を告げた。
『Break Through』
 曲名に観客が即座に反応して歓声が上がり、手拍子が始まった。
 それに乗ってドラムがリズムを刻み、俺がリフを重ねた。
 更にベースとシンセサイザーが加わり、歌が始まると、それまで座っていた観客が全員立ち上がった。
 そして、「Break Through」を連呼するサビになると、観客が一斉に両手の拳を突き上げて歌い出した。
「打ち破れ! 打ち破れ! クソみたいな毎日をぶち壊せ!」
 総立ちで顔を真っ赤にして拳を突き上げ続けた。
 その中に彼女の姿もあった。
 日頃の様子とは違って真っ赤な顔で拳を突き上げて叫ぶように歌っていた。
 それを見た俺は全開になった。
 荒れ狂う魂が炎となって両手の指を包み込んだ。
 燃えるような連符の嵐を会場に突き刺しながら、阿形(あぎょう)のようになっているであろう顔で火を噴くように吠え続けた。
 すると、発火点に達した観客の絶叫がバンドを刺激し、更なる波動を生み出した。
 異次元の興奮が会場を揺らし続けた。

 ライヴが終わって客が全員帰ったあと、メンバーと一緒に録音を聴いた。
 文句なしだった。
 迫力のある演奏と歌、会場の反応、これ以上はないと言ってもいいくらいの最高の盛り上がりだった。
 即座にこれをデモテープにすることを決めた。
 翌日カセットテープにダビングしてレコード会社に送った。

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