『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(20)


 1週間後、ライヴハウスのメンテナンス日を利用して彼女の実家に向かった。
 北海道の旭川だった。
 羽田から1時間40分のフライトで、12時丁度に空港に着くと、レンタカーを借りて、実家への道を急いだ。
 1時間半ほどで着くという。
 彼女はお腹を締め付けたくないと言って、後部座席の助手席側に座った。
 でも、前がよく見えないという理由で中央部分にお尻をずらした。
 バックミラーの中央に写る彼女の顔をちらちら見ながら、直線に近い道路を快適に飛ばした。
 バックグラウンドミュージックはレッド・ツェッペリンで、ジミー・ペイジの速弾きが始まると、どうしてもアクセルを踏み込みがちになった。
 その度に彼女が速度を落とすように後ろから声をかけてきた。

 1時間ほど経った頃、雨が落ち始めた。
 最初はパラパラという感じだったが、5分もしないうちに叩きつけるような雨になった。
 それでも、気にしなかった。前方にまったく車の姿が見えなかったし、対向車線を走る車もほとんどいなかったからだ。

 曲が『Stairway to Heaven』に変わった。
 雨音に負けないようにボリュームを上げた。
 生ギターのアルペジオが美しく響き、ロバート・プラントの神秘的な歌声が車内を満たした。
 聴き惚れていると、リズムが変わって怒涛のような後半に雪崩れ込み、誘われるようにアクセルを踏み込んだ。
 その途端、フロントガラスに叩きつける雨粒が視界を遮った。
 それを蹴散らすようにワイパーを高速にすると、右目の端に何かが見えた。
 でかいバイクだった。
 物凄いスピードで俺の車を追い越そうとしていた。
 その時、反対車線に車が見えた。
 トラックのようだった。
 それを避けようとバイクが車体を左に倒して、車の前に割り込んできた。
 しかし、アッという間もなくスリップして転倒した。
 俺は無意識にハンドルを左に切ってバイクを避けようとしたが、次の瞬間、電柱に激突した。
 激しい衝撃と共にエアバッグが顔面を襲い、視界が閉ざされたと同時に意識が消えた。

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