『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(22)


 その後、検死を終えた警察官から事情聴取を受けた。
 記憶にあることをすべて正直に話したが、電柱に衝突したあとのことは何一つ覚えていなかった。
 そのことを告げると、警察が現場の状況を説明してくれた。
 車は大破して原形をとどめていなかったし、彼女はフロントガラスを突き破って車外に放り出されていたという。
 後部座席でシートベルトを締めていなかったのが原因のようだった。
 バイクを運転していた男は軽傷で済んだらしい。
 警察から「ブレーキは踏んだか?」と訊かれたが、その記憶もなかった。
 アクセルを踏み込んだまま電柱にぶつかったかもしれないが、何も覚えていなかった。

 事情徴収が終わったあと、霊安室に連れて行って欲しいと医師に頼んだが、今は動かない方がいいと止められた。
 しかし、その後も彼女の亡骸(なきがら)に対面することは叶わなかった。
 彼女の両親から拒絶されたからだ。
 更に、葬儀に出席することも拒否された。
 それだけでなく、早く目の前からいなくなってくれ、と冷たく言われた。
 娘は俺に殺されたと思っているに違いなかった。
 可愛い一人娘をやくざなギタリストに殺されたと。
 俺は頭を抱えたが、悔やんでも悔やみきれなかった。

 どうして制限速度を守らなかったのだろう? 
 どうして彼女を助手席に座らせなかったのだろう? 
 どうしてシートベルトをするように言わなかったのだろう?
 彼女のお腹の中に子供がいたのに……、
 何故? 
 何故?? 
 何故??? 

 自分の愚かさが胃液となって逆流を続け、食道を、そして口の中を焼けるような痛みが襲いかかった。

 幸せ絶頂のドライブだったのに……、
 まさか地獄行きのドライブになるなんて……、
 俺はなんということをしてしまったんだ! 

 頭を抱えると、脳内に沈鬱な音楽が鳴り響き、おどろおどろしい歌声が聞こえてきた。
 その歌声は同じフレーズを何度も繰り返した。
 Stairway to Hell、Stairway to Hell、Stairway to Hell、Stairway to Hell……、

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