幻の図書館
 広場に戻ると、すでに蒼くん、紗良ちゃん、岳先輩がそろっていた。

 「どうだった?」

 わたしがそう聞くと、蒼くんがすぐに口を開いた。

 「西側の通りを見てきた。武器屋とか鍛冶屋みたいな、ゲームでよく見る店が並んでた。でも、どの店の主人も“この町では争いなんて起きない”って言い切ってた。」

 「それって、ほんとに平和ってこと?」

 紗良ちゃんが聞いたけど、蒼くんは小さく首をふった。

 「変だったのは、全員が同じ言い方をしたんだ。“この町では争いなんて起きない”って、まったく同じ言葉で。まるでセリフみたいに。」

 「えぇ……こわ。それ、逆にウソっぽいんだけど~。」

 紗良ちゃんがちょっと身をすくめるようにして言う。

 「あ、あたしは、南の通りに行ったんだけどね!」

 彼女は続けた。

 「お菓子屋さんとか、アクセサリー屋さんとか、かわいいお店がいっぱいあったよ!でも、どの人も“この町では、いつもみんな笑顔です”って言ってたの。にこにこしてるような声だったけど……なんか、作り笑いっぽかったかも。」

 言いながら、紗良ちゃんの表情も少しかたくなる。

 「あと、“仮面って必要なのかな?”って聞いただけなのに、“それは言ってはいけません”って言われたんだよ……!」

 彼女の声に、わたしは心の中で強くうなずいた。

 やっぱり――この町、何かがおかしい。

 「俺は北側に行ったよ。図書館や学校みたいな施設があってね。年配の人も何人かいた。」

 最後に岳先輩が口を開いた。

 「特に気になったのは、一人の老人。“昔は、仮面なんてなかった時代もあった”ってつぶやいていた。でも、すぐに近くの住人が“そんな話は忘れなさい”ってさえぎって……まるで“記憶そのもの”を封じようとしてる感じだった。」

 「記憶を、封じる……?」

 わたしはそっとつぶやいた。

 「じゃあ、この町には、何か“なかったことにされた歴史”があるのかもしれない。」

 「仮面をつける前の時代、か……。」

 蒼くんが考え込むようにうなずく。

 「ピエロが言ってたよね。“この町には嘘がある”って。たぶんそれって、“いま住人たちが信じてる常識そのもの”のことかも……?」

 わたしはそう言いながら、今日会った仮面の女の人のことを思い出していた。

 ――仮面をつけてさえいれば、幸せになれる。

 ――変なことを言えば、ピエロに連れていかれる。

 その言葉が、胸の奥にひっかかっている。

 「……もしかして、ピエロってこの町の“支配者”なのかも。」

 紗良ちゃんがぽつりと言った。

 たしかに、この町ではみんながピエロの言葉に従っている。仮面をつけて、同じような言葉をしゃべって、“本当のこと”を誰も言おうとしない。

「ちょっとずつ、見えてきたな。」

 蒼くんが静かに言った。

「この町のルールと、その“裏側”。俺たちが見つけるべき“ひとつの真実”っていうのは……きっと、その奥にある。」

「じゃあ、もう少し調べてみよう。今度は、別々じゃなくて、一緒に行こうよ。誰かが連れていかれたりしたら、困るし……。」

 わたしがそう言うと、みんながうなずいてくれた。

 次の調査では、もっと深く――町の秘密に迫ることになる気がする。

 でも、そのぶん、もっと危険なことも待ち受けているかもしれない。


 わたしは、仮面の町の空を見上げた。

 どこまでも青く、きれいなのに……どこか作り物みたいに感じてしまうのは、なぜなんだろう。
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