幻の図書館

時計塔の迷宮と時の迷子

 本のページが光り出すと、わたしは思わず目をぎゅっと閉じた。

 ふわっとした風が髪を揺らして、まるで夢の中に落ちていくような気持ちになる。

 そして、次に目を開けたとき――そこにはまた、全然知らない景色が広がっていた。
 

 うす暗い空。灰色の石畳の道。古びた建物の屋根が、どれもとんがっていて、どこか外国の町みたい。

 だけど、一番目立っていたのは、真ん中にそびえ立つ大きな時計塔だった。

 「うわぁ……。」

 思わず声がもれる。

 塔のてっぺんには、大きな丸い時計があって、金色の針が止まっていた。

 時間は、「3時15分」を指したまま、ピクリとも動いていない。

 「ここ……どこだろう?」

 「たぶん、また本の世界だよね。」

 後ろから声がしてふりかえると、蒼くんと紗良ちゃん、そして岳先輩もちゃんと一緒にいた。ほっとした。

 「でも……なんか静かすぎない?」

 紗良ちゃんが、不安そうにあたりを見回す。

 たしかに、変だ。人の声も、車の音も、鳥の鳴き声すらしない。

 まるで、この町全体が時間を止めてしまったみたい……。

 「時計塔が止まってるのと、関係あるのかな?」

 わたしがつぶやくと、蒼くんが近くの柱にあったプレートを指さした。

 「“トキノマチ”って書いてある。英語でTime Town……。しゃれてるけど、ちょっとこわいな」

 ここは「時間」がテーマの町。

 本の表紙にも、歯車と時計のイラストが描かれていたっけ。

 「何かがこの町で起きてる。たぶんまた、謎を解かなきゃいけないってことだね。」

 わたしが言うと、岳先輩がうなずいた。

 「町の中を調べてみよう。人がいれば話を聞けるかもしれないし、ヒントも見つかるかも。」


 わたしたちは、静まりかえった町を歩きはじめた。

 カフェの看板がゆらりと風にゆれているけど、中には誰もいない。

 店先の時計も、壁の時計も、みんな「3時15分」でぴたっと止まっていた。

 「なんでこんなことに……?」

 わたしはだんだん不安になってきた。

 と、そのとき。

 カン、カン、カン……!

 急に、遠くから鐘の音が鳴りはじめた。

 「いまの、時計塔の音じゃない!?」

 紗良ちゃんが叫んだ。

 「でも、さっきまでは針が止まってたのに……。」
 
 わたしたちは顔を見合わせた。

 ――この町には、きっと誰かがいる。

 そしてその誰かが、止まった時間を、もう一度動かそうとしている。

 そんな予感が、胸の奥でそっと鐘のように響いた。
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