幻の図書館
 声の聞こえた方へ走っていくと、広場のような場所に出た。そこには、色とりどりの旗が揺れていて、真ん中には大きなステージが組まれていた。

 ステージの上では、何人かの子どもたちが劇を演じていた。小さな王子さまとお姫さま、そしてそれを邪魔する魔女。どこかで見たような、昔話のような場面だった。

 「演劇の町……って、本当に演じてるんだね。」

 わたしは思わずつぶやいた。

 観客席には、町の住人らしき人たちが並んでいた。でもその顔は、どれも役にてっしているように見えた。まるで仮面をかぶっているような……みんな、自分の“感情”を隠しているようだった。

 「なんだか、へんな感じ……。」

 紗良ちゃんがぽつりと言った。

 そのとき、舞台の端に立っていたひとりの少年が、こちらに視線を向けた。短い黒髪に鋭い目つき。けれど、その目の奥には、なにか訴えかけるような寂しさがあった。

 少年は、舞台からそっと降りてきた。

 「……君たち、観客じゃないよね。」

 「え?う、うん。わたしたち、ちょっとこの町に迷い込んじゃって。」

 わたしが答えると、少年は少しだけ笑った。

 「“迷い込んだ”ってことは、本当のことを探しにきたんだろう?」

 「えっ?」

 「ここではみんな、“役”を演じてる。でも、その役が本当に自分に合ってるかなんて、誰にもわからないんだ。ぼくも、ずっと“王子”をやらされてるけど……ほんとは、そんなの嫌だった。」

 少年はポケットから、紙でできた王冠を取り出して、くしゃっと握りつぶした。

 「この町には、真実を語る“最後の役者”がいるって言われてる。そいつだけが、自分の役をなくして、本当のことを話せるんだってさ。」

 「“最後の役者”……?」

 わたしはその言葉を繰り返した。もしかしたら、それがこの物語の鍵かもしれない。

 「その人に会うには、どうしたらいいの?」

 少年は少し考えるようにしてから、ぽつりと言った。

 「演じるしかないよ。この町のルールに従って、君たちも“役”をもらうんだ。そして、その中で“ほんとう”を見つける。それができたとき、“最後の役者”が姿を現すって……ぼくは、そう聞いた。」

 演じることが、真実への道……。

 この町では、“嘘”を演じることでしか、“本当”にたどり着けないのかもしれない。

 わたしは深呼吸して、仲間たちを見た。

 「みんな……やってみよう。わたしたちも、演じてみようよ。」

 蒼くんもうなずき、紗良ちゃんはちょっとわくわくした顔をしていた。

 「じゃあ、わたしは魔女がいい!」

 「それ、真実見つけるつもりある……?」

 岳先輩が苦笑した。

 こうして、わたしたちもこの町の“舞台”に立つことになった。
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