世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
会話が一段落した頃だった。
湊がゆっくりと口を開く。
「……聡一さん。由紀子さん」
呼びかけに、ふたりが同時に湊の方へ視線を向けた。
湊は立ち上がり、璃子の隣に腰を下ろすと、そっと彼女の手を取る。
璃子はその手に力を込めて応えた。
「僕は、璃子さんのことを……とても大切に思っています。
父から調律の仕事を引き継いだときから……ずっと」
由紀子がわずかに驚いた顔をして問う。
「そんなに……前からだったの?」
璃子は、湊の横顔を見ながら、小さく頷いた。
「湊さん、コンクールの予選から……ずっと私の心の支えだったの。
職人さんとしての立場を超えて、私の不安に寄り添ってくれて……
本番の直前にも、私が一番必要としていた言葉をくれた」
璃子はそっと胸元に手を伸ばす。
そこには、ひねりの入った柔らかい曲線を描くネックレスが揺れていた。
「離れてみて、気づいたの。……湊さんがいないと、私は……ダメなんだって」
言葉を継ぐ璃子の声には、震えがあった。だが、それ以上にまっすぐだった。
「篠原さんの家にいても、毎日、湊さんのことばかり考えてた。
優しくされようとするたびに、それが怖くて仕方なくて。
湊さんを思い出さない日は、……一日もなかった」
湊の表情が、切実なものに変わる。
璃子は彼を見上げ、そしてまた両親へと視線を向ける。
「離れたからこそ、わかったの。……湊さんは、私にとって特別な人なの」
由紀子は、璃子の胸元を見つめ、ほっと息をついたように微笑む。
「そのネックレス……素敵だと思ってたの。
あなたがフランスから戻ってきてから、ずっと肌身離さずつけていたから……
湊さんからのものだったのね」
璃子と湊は、そっと目を合わせると、互いの手をぎゅっと握りしめる。
言葉がなくても、気持ちは重なっていた。
璃子は、その手を握ったまま、真っ直ぐな瞳で由紀子と聡一を見つめる。
「……私、ここからもう一度……今度は自分らしく、湊さんと、そしてピアノとも、ちゃんと向き合っていこうと思うの」
「やっぱり……ピアノ、好きだなって思ったから」
その言葉に、由紀子の頬を伝う涙が、ぽとりと手元に落ちた。
聡一もまた、視線を伏せながら、大粒の涙をこぼしていた。
「璃子……」
由紀子はそう言ったきり、声が震えて出せなかった。
そして、背後から鼻をすする音が聞こえてくる。
振り返らずとも、それが創のものであることを、璃子も湊もわかっていた。
湊は、璃子の肩をそっと引き寄せ、体を自分の方へと預けさせる。
璃子は、わずかに身を傾け、彼の胸元に頬を寄せた。
湊がゆっくりと口を開く。
「……聡一さん。由紀子さん」
呼びかけに、ふたりが同時に湊の方へ視線を向けた。
湊は立ち上がり、璃子の隣に腰を下ろすと、そっと彼女の手を取る。
璃子はその手に力を込めて応えた。
「僕は、璃子さんのことを……とても大切に思っています。
父から調律の仕事を引き継いだときから……ずっと」
由紀子がわずかに驚いた顔をして問う。
「そんなに……前からだったの?」
璃子は、湊の横顔を見ながら、小さく頷いた。
「湊さん、コンクールの予選から……ずっと私の心の支えだったの。
職人さんとしての立場を超えて、私の不安に寄り添ってくれて……
本番の直前にも、私が一番必要としていた言葉をくれた」
璃子はそっと胸元に手を伸ばす。
そこには、ひねりの入った柔らかい曲線を描くネックレスが揺れていた。
「離れてみて、気づいたの。……湊さんがいないと、私は……ダメなんだって」
言葉を継ぐ璃子の声には、震えがあった。だが、それ以上にまっすぐだった。
「篠原さんの家にいても、毎日、湊さんのことばかり考えてた。
優しくされようとするたびに、それが怖くて仕方なくて。
湊さんを思い出さない日は、……一日もなかった」
湊の表情が、切実なものに変わる。
璃子は彼を見上げ、そしてまた両親へと視線を向ける。
「離れたからこそ、わかったの。……湊さんは、私にとって特別な人なの」
由紀子は、璃子の胸元を見つめ、ほっと息をついたように微笑む。
「そのネックレス……素敵だと思ってたの。
あなたがフランスから戻ってきてから、ずっと肌身離さずつけていたから……
湊さんからのものだったのね」
璃子と湊は、そっと目を合わせると、互いの手をぎゅっと握りしめる。
言葉がなくても、気持ちは重なっていた。
璃子は、その手を握ったまま、真っ直ぐな瞳で由紀子と聡一を見つめる。
「……私、ここからもう一度……今度は自分らしく、湊さんと、そしてピアノとも、ちゃんと向き合っていこうと思うの」
「やっぱり……ピアノ、好きだなって思ったから」
その言葉に、由紀子の頬を伝う涙が、ぽとりと手元に落ちた。
聡一もまた、視線を伏せながら、大粒の涙をこぼしていた。
「璃子……」
由紀子はそう言ったきり、声が震えて出せなかった。
そして、背後から鼻をすする音が聞こえてくる。
振り返らずとも、それが創のものであることを、璃子も湊もわかっていた。
湊は、璃子の肩をそっと引き寄せ、体を自分の方へと預けさせる。
璃子は、わずかに身を傾け、彼の胸元に頬を寄せた。